2017年の安全保障を振り返って ~イスラム国の崩壊と国際テロ情勢の行方~

   

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今年、安全保障問題で最も注目を集めたのは間違いなく北朝鮮であり、来年の先行きも不透明で、多くの懸念事項が残る。一方、世界的なテロ情勢においても、今年は大きな変動があった。周知のとおり、それはイスラム国(IS)の領域支配の崩壊であり、今後の行方について、さまざまなシナリオが議論されている(例えば、最近筆者は以下のような論考を書いた http://www.ssri-j.com/SSRC/wada/wada-1-20171120.pdf )。

ISの終焉=テロの終焉ではない

2014年以降、国際テロの問題はほぼISに焦点が当てられ議論されてきた。9.11以降のジハーディスト情勢において、ISは組織的、財政的、軍事的に強大化し、領域の統治を実現したことから、他のグループや戦闘員らの中で圧倒的な存在力、求心力を持つようになった。そして、そのISが約3年という歳月の中で崩壊するに至ったのだが、テロの脅威はISの崩壊によって終焉するものではない。ISの終焉とサラフィジハード主義(ISについて言えばタクフィール主義)の終焉はイコールではない。

9.11以降の16年間で、我々は米国によるアフガン戦争、アルカイダの弱体化、テロの拡散、オサマ・ビンラディンの死、ISの出現、ISの領域支配の崩壊、という現実に直面してきたが、国際テロ情勢をというものは非常に流動的に変化しており、おそらく新たな動きが来年見えてくるだろう。

今後のIS情勢を巡っては、イラク・シリアで依然として逃亡する戦闘員、母国または第三国へ移動した戦闘員、IS支持者らによるプロパガンダ活動などに焦点が集まるが、“領域支配なしのIS”がどのような展開を見せるかが大きなポイントになるだろう。

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「フランチャイズ」化するアルカイダ

今年7月もアルカイダ系組織「AQAP(アラビア半島のアルカイダ)」による軍の襲撃などがあった

一方、最近になって筆者が愛読するテロリズム研究の雑誌 ”Perspective on Terrorism”から最新の論文集が送られてきた(http://www.terrorismanalysts.com/pt/index.php/pot )。なぜ今これを紹介したかというと、本号ではアルカイダを特集に組んでいるからだ。アルカイダについて、多くの専門家は弱体化したと言うが、それは組織としてのアルカイダを意味し、アルカイダのフランチャイズ化(忠誠を誓う組織と自発的に過激化する個人)というものは今日でも存在し、ISの出現と拡散にも深く関係している(AQAPのアンワル・アウラキなど)。当然のことながら、アルカイダに忠誠を誓っているとはいえ、各組織は第一義的にはローカルな組織として活動しており、地域研究的な視点から観ていく重要性を忘れてはならない。しかし、各組織がグローバルジハード主義を掲げるアルカイダ中枢への忠誠を貫いている時点においては、国際安全保障上、軽視することはできない問題である。

この雑誌は専門家の間でも評価が高く、ISの終焉というこの時期にアルカイダをテーマにした特集を組むということからは、アルカイダに対して今後注視すべきことを我々に提示しているのかも知れない(もちろん、領域支配のISの終焉によって、アルカイダへ焦点が集まりやすくなるとも言えるが)。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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