中国の都市から消える出稼ぎ労働者―住む場所を追われる発展の担い手たち

   

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住む場所を追われる出稼ぎ労働者たち(出典:Twitter[@AyakoHayakawa])

住む場所を追われる出稼ぎ労働者たち(出典:Twitter[@AyakoHayakawa])

1990年代以降、中国の経済発展は上海をはじめとする沿岸の大都市やその郊外で働く低賃金の農村戸籍の出稼ぎ労働者によって成し遂げられてきた。その出稼ぎ労働者たちが大都市からの移動を迫られている。

習近平政権になって以降、積極的な「都市化政策」が図られている。ここでの都市化とは2つの意味がある。1つ目が、北京・上海・広州・深センなどの超大型都市の人口過剰を抑え、住居問題や環境汚染、犯罪を含む都市問題を解決すること。2つ目は、経済発展が相対的に遅れている中小規模都市や大都市周辺の農村部を工業化し発展させていくなかで、新たな労働者を超大型都市から移動させていくことである。

超大型都市の人口抑制

日本でもいくつかのメディアで報道がされたが、中国政府は大都市の人口抑制をするために出稼ぎ労働者が集住する居住区の再開発を政府がこれまで行ってきた。こういった政策は、例えば省政府などが「法律にのっとり、違法建築や古い建築物を取り壊す」という名目の下、大々的にここ5年の間に行われてきた。無論、このような建物に住む中国の人々の大半は、上記の出稼ぎ労働者である。

彼らは、その農村戸籍ゆえに、できる仕事も差別的に制限され、低賃金で都市での社会保障サービスも受けられない(政府も戸籍に起因する公共サービスの差別を撤廃しようと取り組んではいるが、それでもまだその不平等は深刻である)。そのため、農村からの出稼ぎ労働者は往々にして古い建築物や居住区に集団で住んでいるのである。また、そういった建物は、違法建築である場合もよくある。また、こういった政策は、都市の建設計画と政策がより政府による厳格な制度設計の進行とともに進められていく。

他方で、こういった古い建築物を排除すると同時に、大都市の中では政府とデベロッパーの共同で新たな大規模建設がなされていく。そこでは高層建築が立ち並び、緑も多く環境汚染も少ない「都市の現代化」が目標として掲げられる。そのようなキレイな街では、無論、これまでの大都市の経済基盤や都市民の生活を縁の下から支えていた出稼ぎ労働者の働く場所も住む場所も必然的に減っていく。

路上で眠る出稼ぎ労働者たち(出典:Twitter[@AyakoHayakawa])

路上で眠る出稼ぎ労働者たち(出典:Twitter[@AyakoHayakawa])

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出稼ぎ労働者の向かう先(1):工業中心になる農村

出稼ぎ労働者は元々農業では生活ができない故に、都市で働いていた。では、大都市からいなくなった出稼ぎ労働者はどこに行くのか。1つは、大都市の近辺にある農村である。農村といってもそこはここ数年で、地元政府の政策によって工業化させられた農村である。筆者が訪れた浙江省の農村では、地元政府が5年ほど前に村一帯の農地を収用し、区画整理をしたのちに工業用地に外国企業の工場を誘致することに成功した。また、土地を収用された村民や新しく工場で働くことになる出稼ぎ労働者には、居住区と家を新たに建設し提供していた。中国では、農村の土地収用でよく農民と政府の間でトラブルとなり集団暴動に発展することが全国的に多い(中国の年間集団暴動件数は、国の統計で10万件、専門家の計算で20万件弱といわれている)が、こういった成功事例もある。

筆者が、訪れた工場では農村であるにもかかわらず月収にして6000元(日本円で9万円前後)を労働者が得ていた。地元の人と話していると、その地域で生活するには月収で2000~3000元あれば十分で、6000元の月収は出稼ぎ労働者にとってはかなり魅力的だそうだ。もちろんこのような「厚遇」の背景には、ガスマスクを常に着用しながら仕事をするため、長期間の労働が困難であるということも一因にある。このように、従来は大都市に集中していた中国のこれまでの成長を担ってきた工場などが、周辺の農村などに分散してきているのだ。

出稼ぎ労働者の向かう先(2):中小規模都市の工場

2つ目に、超大型都市にいた労働者が向かう先が中小規模都市である。近年の傾向として、各企業は環境やコストの面から中小規模都市へもその工場を移転してきている。また、中国政府は戸籍制度によって農村戸籍から都市戸籍への厳しく制限してきた。しかし、中国政府は人口を分散させるために人口規模に応じて中小規模都市への戸籍変更の条件を、超大型都市の条件と比べ、緩やかな基準あるいは制限そのものを撤廃するような施策をとってきた。こうして、たった数十年で爆発的に発展しきた一部の都心とその他の都市の発展の格差を埋めようとしてきた。このように、都市の規模によって出稼ぎ労働者に対する政策上の制限に強弱をつけるのは、他に住宅政策や教育政策などでも見られる。

中国の発展を築いてきた労働者の行く末は

以上のように、中国の大都市では現在、これまで中国経済の成長を縁の下から支えていた出稼ぎ労働者が、その外へ外へと政府の政策によって導かれている。複数の政策によって今度は、より小さな規模の都市や農村の発展が目指されているのである。

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橋本 誠浩
橋本 誠浩(はしもと ともひろ) 東北大学法学部法学科卒業(法学学士)、浙江大学公共管理学院AFLSP2015(公共管理修士)修了。専門は、中国政治。特に現代都市社会について政治学の観点から分析を行っている。中国で3年過ごし、現在仙台を拠点に研究活動を継続。

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