北朝鮮に行ってみたー中国人が見た「懐かしい」計画経済の面影

   

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中朝辺境にあるきらびやかな都市・丹東(たんとう)からやや6時間、北朝鮮の首都・平壌に到着した。6時間の鉄道の旅は、単に国境線を超えるというだけでなく、まるでタイムトリップのように、毎年200万の中国国民を懐かしい社会主義の世界に運んでいってくれる。

北朝鮮ツアーに参加している中国人は、主に中国東北部に住んでいる中年から高齢者であった。彼らにとって、中国東北部の経済不振の中で、若い頃の豊かな社会主義生活をもう一度味わうことができるのは、たぶん北朝鮮しかないのであろう。

4か国語を操る超エリートのツアーガイド

平壌行きの列車とチケット(いずれも筆者撮影)

平壌駅に到着すると、私たちを迎えたのは、熱烈な革命歌と北朝鮮側のツアーガイドだった。20人のツアーグループに、2人の北朝鮮ツアーガイドと一人のカメラマンが割り当てられた。私たちのツアーガイドは、若い男性とちょっとだけ年を取った女性の二人だった。金日成総合大学ドイツ学専門の4年生の男性ツアーガイドは、ドイツ語はもちろん、英語、日本語と中国語もぺらぺらに喋れて、北朝鮮社会の超エリートといってもよい。女性のツアーガイドは、社会経験が豊富で、中国の瀋陽・北京を訪ねたことがあるそうだ。中国語がうますぎるこの2人は、胸の金正恩のバッジがなければ、まるで中国人に見える。

旅のルートはすでに規制されていたので、現地の住民との交流のチャンスは全くなかった。しかし、20代同士の私とあの男性ツアーガイドは、ツアーグループでは珍しい若者として、いろいろなことを話した。彼との交流から、裏にある北朝鮮の大学生の生活を少しだけ窺えた。

北朝鮮の大学と中国の大学は同じく、政治課程を受けなければいけない。同じ社会主義国として、イデオロギー面について、大体同じだと思った。こういった先入観を抱いて、私は「大学でどんな本を読みましたか?」と男性ツアーガイドに聞いた。向こう側からの返事は金正日将軍の『先軍政治』だった。

「マルクスの文章は、読んだことありますか?『共産党宣言』など」私は引き続き質問した。彼は「ないよ、古い思想だから、私たちは新しい思想しか読みません」と回答した。

中国の政治課程で基本文献として扱われる『共産党宣言』は、北朝鮮ですでに古い思想として死刑を下されていたようで、彼の回答は私の想像の枠を遥かに超えているものだった。

引き続き、アメリカのことを話した。「米帝国主義との戦争にはもちろん、いつでも自分の命を将軍のために捧げる」、彼はこう語った。普通にテレビでしか聞こえないドラマのような発言が、今日ようやく自分の耳に聞こえてきた。しかし、もっと驚いたのは、周りの中国人の歓声だった。

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計画経済時代を懐かしむ、北朝鮮ツアーの中国人

北朝鮮 旅行

平壌の大学生たち(筆者撮影)

「血で固められた友誼」「唇歯の関係」、中国と北朝鮮の関係は兄弟のような存在である。鄧小平による改革開放以降、社会主義路線を一部放棄した中国は、高速な経済成長をみせ、人民の旅行規制も緩和した。今の中国人にとって、彼岸世界にあったアメリカなどの資本主義国は、もう此岸になり、行ってみるだけでなく、長期滞在もできる。

高速な経済成長の裏には、中国東北部の没落がある。「共和国の長男」である中国東北部は、満洲国の工業基盤を後続いた国有企業を主体として、改革開放以前の中国では一番豊かな地域ともいえる。ところが、市場経済の導入に伴い、競争に負けた国有企業が続々と倒産した。
経済成長が中国平均値を遥かに下回った状態で、東北部の住民の生活も苦しくなりつつある。そんななか、まだ計画経済に執着していた北朝鮮は、彼らにとって、懐かしい存在であった。

北朝鮮ツアーガイドの「米帝国主主義を打倒せよ」の発言は、周りの中国人から熱狂的な拍手を集めた。「市場経済は真の悪魔です。我が国では、住宅はタダで公民に分配し、医療と教育も無料で提供する。みんながマンションで住め、みんなが健康で生きている」と、女のツアーガイドは話を続けると、思わぬ歓声と拍手が湧き起こった。「中国は最近おかしくなってきたよね」、50代前後の中国人が語り、「やはり、計画経済の方がマシだね」と断言した。今回、私の想像の枠を破ったのは、中国人だった。

これからの中朝関係の行方

北朝鮮 旅行

平壌市内牡丹峰区域での巨大な宣伝画像(筆者撮影)

北朝鮮の懐かしさは、中国人にとって確実な存在である。同じ社会主義国であって、同じ戦争の被害者としての悲情も両国の間である程度通じる。現実に不満を抱いていた中国の人々は、ユートピアのような北朝鮮を通じて、自分の若い頃の記憶を喚起させられる。

現在中朝関係の行方は、中国人旅客の歓声と拍手から一部窺える。北朝鮮の動きは続々国連の制裁を招いてきた。これに対して、中国は適切な行動を国際社会に見せないといけない。しかし一方で、東北部の経済が泥沼に陥った状況で、北朝鮮との経済交流を活発化させれば、当地の困窮を多少緩和できる。また、国内の不安を鎮めるため、この「懐かしさ」を多少保たなければいかないだろう。矛盾と衝突から積み重ねてきた中朝関係はこれからどうなるのか?

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高 暁彦 (ガオ シャオイェン)
高 暁彦(ガオ シャオイェン)。1994年中国・四川省生まれ。上海華東師範大学政治学部卒業(法学学士)、現在は東北大学大学院法学研究科在学中(修士1年生)。専門は中国政治・中国政治史。

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