金与正氏の訪韓と南北関係の行方

   

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文在寅 金与正

大統領官邸にて握手を交わす文在寅大統領と金与正氏(出典:president.go.kr)

北朝鮮の国営「朝鮮中央通信」は13日、金正恩(キム・ジョンウン)氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏が平昌五輪に合わせて訪韓し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と会談したことを受け、正恩氏が同会談を高く評価し、南北関係の改善に向けて動き出す意欲を示したと報じた。

北朝鮮が韓国を含めた周辺諸国と関係を改善し、地域一帯の安全保障環境が良い方向に向かうのであれば、それに超したことはない。しかし、今回の会談が長期的な意味での南北関係の進展、極東アジアの安全保障環境の改善に向かうわけではない。

各国間の国益が衝突する極東アジア

現状、極東アジアの安全保障情勢は、北朝鮮の核問題、また米国と中国、ロシアなど大国間のパワーバランスといった問題を含み、各国それぞれの利益というものが衝突している。極東アジアにおいては、世界で唯一冷戦の構造が色濃く残っているため、各国が対立感情を抱いている。結果、欧米のNATOやAU、ASEANのような地域レベルの政治・経済的枠組みを創設するのが極めて難しくなっている。

金正恩総書記の戦略は?

このような複雑な安全保障情勢において、正恩氏はどのように動き出すのだろうか。

今回の与正氏の訪韓に具体化される“北の南への歩み寄り”は、去年韓国において文在寅政権が誕生したことがきっかけだろう。ミサイル発射や核実験によって、北朝鮮の孤立化が近年叫ばれる中、韓国に北との融和を訴える政権が誕生したことで、北朝鮮は孤立化から逃げ出せる可能性を自然に手にした。

仮に南北関係が改善へと動き出すのであれば、それは北朝鮮の核・ミサイル問題で一致してきた日米韓の連携にヒビを入れることになるだろう。日米は、北朝鮮が核・ミサイル問題で妥協することを交渉に向けての第一条件としていることから、韓国が北へ独自に歩み寄りを見せることに強い懸念を抱いている。

正恩氏の頭の中には、現状を打破するにはまず日米韓の連帯を崩し、韓国との関係を改善させることが、“核保有国北朝鮮”を黙認させる上での第一ステップだとの考えがあるのかもしれない。仮にそうであるならば、今回の南北会談も北にとってあくまでも“手段”であり、“目的”ではないことになる。

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米国の影響力低下ゆえの北の強硬姿勢の可能性

また、今回の与正氏の訪韓を国際政治の視点からみると、大国間の力関係といったものも影響しているのかもしれない。北の核・ミサイル問題については、中露も外交の現場で懸念を示してはいるが、明らかに日米とは温度差がある。

そして中露がパキスタンやアフガニスタン、シリアなどで米国の影響力を埋めるかのように存在力を高めている状況は、北朝鮮に“存在力を弱める米国”といったイメージを持たせていることも否定できない。さらに、去年誕生したトランプ政権は“強い米国”を国際社会に示そうとしているが、正恩氏はその意志と能力の乖離、相対的な影響力の低下に気づき、巧みに対米戦略を進めているおそれがある。

難しい舵取りを余儀なくされる文在寅

文在寅 金与正

北朝鮮の「三池淵管弦楽団」の演奏を観覧する金与正氏と文在寅大統領(出典:president.go.kr)

今回の与正氏の訪韓は、大統領選挙戦の時から南北融和を掲げていた文在寅大統領にとって、自らのマニフェストを実現させて行く上で絶好のチャンスとなったことだろう。しかし、それによって国民の支持率が減少するだけでなく、日米との関係にも亀裂が見え始めている。北朝鮮の核・ミサイルを巡る問題の時期が時期でだけに、文在寅大統領は非常に難しい外交の舵取りを余儀なくされている。

今後の動向としては、文在寅大統領が南北関係の行方の中で如何に核・ミサイル問題で踏み込むのか、その中にどう米国を絡めていくのかがポイントとなろう。仮に、核・ミサイル問題を置き去りにして南北関係が進展するのであれば、トランプ政権と文政権の亀裂はさらに深まることだろう。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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