中国社会で広がる「欧米とは違う」に潜む矛盾

   

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言論統制は、人々の口を閉ざすのか

上海 中国

(Photo by Pedro Szekely from flickr)

「中国で言論統制が敷かれている…」

これは日本のメディアを通じてよく聞かれる中国事情の一つであるが、では言論統制が強化されたら中国の人々は自由に政治や文化について語れなくなってしまうのだろうか。

確かに、中国政府の言論統制はメディアやネット、大学などで大きな影響を与えている。例えば、西欧や日本の民主主義について大っぴらに語ることは場所や言い方を選ばないといけないこともある。

ただこの場合、西欧の「民主主義」については大っぴらに語れなくとも、政治について語ること自体がタブーにはなっていない。むしろ、大学の研究やソーシャルメディア、はたまた井戸端会議などを通じて盛んに議論はされている。この背景には、中国を欧米との対比で「特殊」だととらえ完全な区別をする考え方があるからである。

「中国は西欧と違う」が孕む問題

リーマンショックなどに見られる欧米諸国の失敗と、それと対照的な中国のこれまでの政治・経済・社会での成功―――欧米諸国の停滞と同時代の中国の発展という対照的な経験を根拠に、中国国内では、欧米諸国とは異なる中国独自の価値観・文化・歴史を正当化するような意識が根付いてきている。これは、西欧の「民主主義」「人権」などの価値観や経済発展のモデルを「失敗したモデル」、「私たち中国とは異なるもの」として見るもので、北京大学の著名な政治学者である潘維氏が提唱した「中国模式(モデル)」の議論などを起点に2000年代に国内でかなり目立つ考え方となった。

無論、どんな国にもその国の成り立ちや発展の仕方に特殊性はあるものの、ここで言いたいのは、中国で言論統制が強まっている結果として、無批判のうちに西欧の価値を拒絶し「中国独自の価値」を造っていることが問題だということである。

例えば、昨年筆者が参加した中国国内での学術研究報告会において、中国人の報告者たちが「中国の社会はそもそも西欧の尺度では測れないので、一緒に研究する必要はない」として、欧米の研究者がこれまで蓄積してきた重要な成果を意識的に無視したうえで中国社会を語り、彼ら独自の理論をつくる光景が見られた。

また、このような「特殊な中国」という文脈においては「言論の自由」がむしろ政府によって積極的に推奨されている。先の党大会後にそれが如実に表れたのが、複数の国内の重要大学で「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義」を礼賛するための研究機関が設立されたことだろう。

「クリスマス禁止令」に見る、言論統制がもたらしたもの

上海 中国 クリスマス

(Photo by Marc van der Chijs from flickr)

そのような言論空間が実社会でどのような問題となるのか。それが垣間見えたのが、先月末に中国地方政府が発令した「クリスマス禁止令」であろう。その禁止令では、クリスマスイベントへの参加や、商業活動をする店舗でのクリスマスツリーなどの飾りつけが禁止された。一部の地方政府によっては学校で学生を動員し「西欧の文化」を拒否し「中国の伝統」を強調する運動も行った。この禁止令を報道した多くのニュース記事では「欧米の価値観が中国社会に浸透することを中国政府が警戒している」と報じられた。

実際のところこういった禁止令は地方政府が主体で発令されたと思われるが、そもそも中国では西暦を暦として使うなど、キリスト教を起源とする習慣や生活がすでに社会に浸透している。また、クリスマスを楽しむこと自体が中国国内で人々にどれだけ宗教的意義をもつのかも疑問である。多くの若い中国の人々にとっては、単にクリスマスというイベントを楽しみたいだけかもしれない。だからこそ、クリスマスの禁止一つをとって欧米の価値観、キリスト教の価値観の中国社会への浸透を警戒するというのは、中国社会の現実を見れておらずかなりナンセンスな判断と言わざる得ない。

このように中国の地方政府が中国社会の現実をとらえきれなかった原因は、無批判のうちに「中国独自の価値」を強調し「西欧の価値」を拒絶しようという考えをもっていたからではないか。また、こういった考え方を生み出している根本的な原因として、言論統制の強化があるのではないか。

まとめ

中国で言論統制の強化が起こっていることに対して、注目するべきはその自由の制限ばかりではない。私たちにもう一歩踏み込んで求められているのは、言論統制の裏返しとして強調されている「特殊な中国」を強調する「チャイナドリーム」や「中華民族」という言葉が、中国の実態をどこまで捉えているのかを、慎重に判断する姿勢ではないだろうか。

橋本 誠浩
橋本 誠浩(はしもと ともひろ) 東北大学法学部法学科卒業(法学学士)、浙江大学公共管理学院AFLSP2015(公共管理修士)修了。専門は、中国政治。特に現代都市社会について政治学の観点から分析を行っている。中国で3年過ごし、現在仙台を拠点に研究活動を継続。

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