習近平の新時代の中国の特色ある社会主義…だから何?

   

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(出典:中華民國總統府網站資料開放宣告)

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そう、だから何?と思う人、日本には多いのではないだろうか。先日の党大会では党規約に国家主席の名前を冠した思想が入ったことで、多くのメディアでは「習近平国家主席への権力集中!」と言われている。こういったニュースを連日聞いていても、国のリーダーの言葉や演説が政治や思想のことについてだとしたら、自分たちの生活に直接関係があるなんて想像しにくいかもしれない。

しかし中国では、今後この新しい「思想」は晴れて中国共産党員のみならず、国民全員が理解し従っていかなければならない政治思想となる。内容の是非はともあれ、実際この「思想」が中国の人たちの日常生活のなかでどのように浸透していくのか、いくつかの事例を取り上げながら紹介する。

高校・大学の新たな必修授業

まず国家リーダーの思想が人々にとって身近に感じられるのは、学校での授業や入試においてであろう。今回の習近平総書記の「思想」が党規約に入ったことを受けて、中国版ツイッターのウェイボーでは「また一つ試験勉強が増えた」などのコメントがあふれた。

というのも中国では、高校・大学において政治の授業は必修であり、その内容もマルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論…など中国の言う社会主義思想に加えてこれまでの国家主席の思想をすべて学ばなければならない。大学入試でも必修となるこれらの科目に、今回新たに習党書記の「思想」が加わったため、ネット上ではかなりの人が皮肉を言ったり、騒いだりした。

実際に中国の大学生とこれまでの国家主席の思想の話をしていると、彼らはとにかくそれらの思想の丸暗記をするようだ。しかし特に大事な部分については暗唱できる人もかなり多い一方、内容については、意味をよく理解できていない人も実は多い。そうではあるが、それが自分たちの従っていかなければならない規範やルールとして徹底的に刷り込まれていくのである。

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会社でも「習近平思想」―スピーチコンテストの開催

「思想」が社会に普及していく場面は何も教育現場に止まらない。筆者の友人などに話を聞いていると、会社でもそれは起こる。浙江省のとある企業では、どの職員が党大会で発表された思想や演説に今後企業の活動や自分が貢献できるのかということをテーマにスピーチコンテストが開催された。審査員や聴衆が数百人いる中、全員正装をして感情豊かに自らのスピーチを行う。彼らは、それまでの勉強会などで「武装」をしてきた知識を元に、我こそが最も「新時代の思想」を理解し主導していくことができるとアピールするのである。

習近平の言葉を一行一行写経?

市民の身近な生活だけではなく、習近平の『思想』は科学的検証を行うはずの研究機関にも及ぶ。党大会開幕中に中国国営放送のCCTVでは、一人の大学教授のインタビューが報道された。習近平党書記が発表した思想を受けて彼は「まず私たちの頭を(新しい思想で)武装しなければならない(首先是武装我们的头脑)」と答えた。

大会期間中、大学教員たちは「武装」のため学生に「一語一句分析と、過去の国家リーダーの思想や理論と比較」することを課題として出している。だから中国の大学生たちはテレビの前で習近平党書記の語ることを一言一言しっかりと聞いて、一語一句どういう意味なのか丁寧に分析する。なぜならこれが今後の彼らの学ぶこと、研究することになるからだ。

党書記の思想や演説は、ひとたび公表されると、それが大学での主な研究テーマになる。今回の党大会の後には、中国国内の有力な大学において、習近平党書記の思想の為だけに新たな研究機関が複数創設された。今後こういった研究機関に加えて、文理関係なく中国の大学教授から学生まで論文のタイトルには、その思想をテーマにしたものが数十、数百と毎月発表される。それらの「科学的研究」で大事になるのは、思想や政治、政策に関する客観的な検討ではなく、あくまでもその思想をもとにいかに中国が今後も成功裏に発展していっているのかが様々な分野で語られるだろう。

ゆえに、私たちがこの5年間において中国を理解し、付き合っていく上でも、こういった『思想』を相対化した上で習近平政権の成果と戦略を検証していかねばならない。

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橋本 誠浩
橋本 誠浩(はしもと ともひろ) 東北大学法学部法学科卒業(法学学士)、浙江大学公共管理学院AFLSP2015(公共管理修士)修了。専門は、中国政治。特に現代都市社会について政治学の観点から分析を行っている。中国で3年過ごし、現在仙台を拠点に研究活動を継続。

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