なぜムスリムが襲われた?エジプト・シナイ半島のモスク襲撃を読み解く

   

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エジプト東部シナイ半島北部の町ビルアブド近郊にあるモスクで24日、金曜礼拝のため集まったイスラム教徒を狙った無差別テロ事件(爆弾投げ込みと銃乱射による)が発生し、これまでに300人以上が死亡した。

エジプトでは断続的にテロ事件は発生するが、軍や警察など治安当局者、キリスト教一派のコプト教徒などを狙ったものが多く、今回のようにイスラム教徒が狙われるテロ事件は非常に稀で、犠牲者の数からも、同国で起きたテロ事件としては過去最悪規模となった。

また、アルカイダ系の「イスラムの兵士」やムスリム同胞団系の「ハサム運動」など地元エジプトを拠点とするイスラム過激派組織は同事件を非難する声明を出したが、負傷者によると、今回の実行犯らはイスラム国(IS)の黒い旗を掲げていたとされ、IS系組織の犯行が強く指摘されている。

事件にはどのような意図、背景があるのか?


スーフィズムの子どもたち

では、今回のテロ事件について、専門的な見地からどのようなことが言えるのだろうか。以下、それについて簡単に述べてみたい。

(1)ISが異端視するスーフィズム(神秘主義)のムスリム

まず、今回標的となったのは、イスラム教の中でも極めて少数派のスーフィズム(神秘主義)を信仰するムスリムである。上記のように、エジプトでイスラム教徒が標的となるテロ事件は極めて異例だとされるが、これをISという枠内で考えた場合、それは決して珍しいことではない。例えば、パキスタンではスーフィーの聖廟やスーフィズムの信仰者を狙ったテロ事件が断続的に発生している。ISは少数派のシーア派やスーフィズムを異端視しており、それらを狙ったテロを繰り返していることから、今回のテロ事件がISのイデオロギーを掲げるグループ(具体的には2015 年にバグダディ容疑者へ忠誠を誓ったISのシナイ州)によって実行されたことは十分に想像がつく。

(2)「IS」というブランド・イデオロギーの誇示

また、グローバルジハードという視点から見た場合、今回のテロ事件はISというブランドやイデオロギーが死んでいないことを示す役割を果たすのかも知れない。ISはシリア・イラクで領域支配を失い、ほぼ崩壊寸前にある。イラク・シリアでの領域支配はISのraison d'être(存在価値)となり、それによって忠誠組織や賛同者を獲得してきただけに、その喪失はISの持続性を考えると大きなリスクとなる。よって、領域支配の喪失後もISの存在を誇示し、求心力を維持させる目的を含み、ISの支部が今回のような大規模テロを実行した可能性も考えられる。
一方、地域研究的な視点からは、IS系組織が2015年以降シナイ半島で台頭する中、それに反発する地元の部族やイスラム過激派との緊張が高まり、それによってIS系組織が地元イスラム教徒を標的としたテロを実行したとの見解も聞かれる。

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失業・経済格差が深刻化 テロの温床となっているシナイ半島

シナイ半島では長年テロ事件が絶えない。近年はISのシナイ州を名乗る組織のテロ事件が目立つが、それ以前からも同組織の前身組織であるアンサール・ベイト・アルマクディスやその他のイスラム過激派による悲惨なテロ事件が発生している。日本人であれば、ちょうど20年前の1997年11月に発生し、邦人10人が犠牲となったルクソール事件が思い浮かぶだろう。

そして、今後のシナイ半島情勢の行方も明るいものとは言えない。エジプトでは若者の失業や経済格差が深刻化しており、特にシナイ半島の給与はエジプト平均の3分の1にも満たないという報告もある。そのような社会経済的問題が、若者がテロ組織にリクルートされる土壌になっており、今後如何に若者の雇用問題に取り組んでいくかが重要な要素となろう。

また、今回の事件では、実行犯らは30人程度で、4台の車で現場に乗り付け、爆弾をモスクへ投げ込んだ後に逃げ惑う人々を無差別に銃で乱射したとされる。この事実からは、実行犯らにはテロを計画できる十分な時間や空間があったと推測でき、シナイ半島において比較的自由に活動・移動が可能で、軍・警察によるコントロールが十分に行き届いていないことが考えられる。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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