イスラム国からの“帰還者”はどの程度脅威なのか?

   

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昨今、国際的なテロ情勢を分析するセキュリティコンサルティング会社「ソウファン・グループ(Soufan Group)」から興味深い報告書が発表された。報告書は“BEYOND THE CALIPHATE: Foreign Fighters and the Threat of Returnees”というタイトルで、要はモスルやラッカという要衝の陥落によって、ほぼその領域支配を失ったイスラム国(IS)からの帰還者の脅威について分析している。
 
“BEYOND THE CALIPHATE” リンクはこちら

ISからの帰還者は既に5600人?

この報告書によると、これまでIS(それ以前のISILの時も含む)に戦闘員として参加した者は、世界110カ国以上から4万人を超えるとされ、少なくとも5600人が母国または居住国に既に戻っているとされる。参加した戦闘員数が最も多いのはロシアで3417人に上り、以下サウジアラビアの3244人、ヨルダンの3000人、チュニジアの2926人、フランスの1910人と続き、また帰還した戦闘員では、サウジアラビアが760人、ロシアが400人などとなっている。
 
このSoufan Groupの社長であるAli Soufanは、近年の国際テロ研究の世界でも多くの著書や論文を出しており、テロ対策研究者としても筆者は非常に優秀であると思う。今回の報告書も多くのメディアや専門家の論評でも引用されており、その分析的な影響力も大きいだろう。しかし、我々は“戦闘員が既に5600人戻っている”という事実のみを持って、必要以上に脅威を誇張することはあってはならない。
    

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帰還した理由は帰還者によりさまざま

確かに危機管理的な視点から、各国の治安当局がそれに対して最大限の対策を講じるべきことは言うまでもないが、その各論も見失ってはならない。例えば、仮に5600人が母国・居住国に戻っていたとしても、その後国内でテロ事件を実行して逮捕、もしくは死亡した者はその1%にもはるか及ばず、ほんの少数である。

また帰還した理由もさまざまで、それらは帰還者たちへのインタビューにより明らかになっている。確かにISの過激なイデオロギーに染まり、国内でテロを行う意志を少なからず持っている者もいるが、反対にISの残虐性や非人道性に幻滅した者や、IS下の活動に恐怖感を感じて逃亡した者なども多く含まれる。

今日、欧州や中東諸国では、このような帰還者をどう扱うべきかが大きな問題になっている。帰還者はテロリストであるとの判断で、警察権の行使を中心とするハードなアプローチを採る国もあれば、例えば今日のデンマークのように、帰還者に対しては社会復帰やリハビリテーションなど、よりソフトなアプローチで対応しようとする国もある。
 
帰還者に対しては、確かに十分な注意が必要である。しかし、帰還者=テロリストとのレッテルだけでこの問題は解決しない。ISに参戦した個人的な理由は何か、どうして帰ってきたのかなどより個別具体的なアプローチで、その帰還者に見合った対応をとっていくことが今日求められている。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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