「習近平指導部2期目始動~今後の中国の行方~」(2)[東北文化学園大・王教授]

      2018/04/30

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【特集】「習近平指導部2期目始動~今後の中国の行方~」

習近平総書記が党規約に自らの政治思想を明記し、行動指針としたことなどで注目を集めた、第19回党大会が10月24日閉幕し、翌25日に2期目の習近平指導部が発足した。今回の党大会で行われた政治報告や、人事における注目点について東北文化学園大学で中国政治について研究している王元(おう げん)教授へお話を伺った。

今回の特集では以下の5項目を(1)・(2)・(3)の3回に分けて掲載する。

(1)記事へのリンクはこちら

1.習近平政権1期目を振り返って

2.人事について

(2)【本記事】

3.今後の政治体制について

4.中国社会の弱点とは

(3)

5.中国を見る目

(以下、インタビュー)

 

3.今後の政治体制について

近代化という目標を2035年に前倒し

習近平総書記は「2035年までに社会主義の近代化を実現する。21世紀半ばまでに社会主義近代化強国を作る」と述べた。

「2035年」という数字は今回初めて掲げられた目標である。かつて鄧小平は漠然としたビジョンの下で建国100周年の2049年に近代化を実現するとしていた。今回新たに掲げた「2035年」というのは、当初2049年までに実現するとしていた近代化という目標の達成時期を早めたということだ。

これは、習近平指導部1期目の5年間で世界各国の予測ほど成長率が低下しなかったこともあって、早期達成に自信を持ったためである。これを達成するためには、現状維持では難しく、成長が低下していく中で、相当な成長率を維持しなければならない。

◇具体的目標値

中国が目指す近代化というのは、先進国の中で1人あたりのGDPが低い韓国やイタリア、スペインの数値に追いつき、先進国入りするということだ。具体的な数値で言うと、目標となる3か国のGDP約2万5千ドルという壁を乗り越えなければならない。現在中国の1人あたりのGDPは約1万ドルで、成長率は約6.7%である。

達成目標から逆算すると、これからの中国に必要な経済発展の速度は、今後5年間において6%台の成長率を維持する必要がある。すなわち、毎年減少する成長率の割合を0.2%以内に収めなければならない。この目標値を達成できれば、中国は2035年に先進国家の仲間入りを果たすこととなる。

なお、日本の予測では毎年0.3%減少すると見なされており、この速度では達成できない。基本的に余裕は全くない状態である。しかし、成長率6%台を維持することができれば、これは日本にとっても大きなチャンスである。日本への需要が増え、日本企業にとっても大きな利益となるであろう。

中所得国の罠

また、中国が目指す近代化を実現できるかどうかの基準になるものとして、「中所得国の罠」というものがある。これは、途上国が、経済成長を遂げて、1人あたりのGDPが中程度の水準に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下あるいは長期にわたって低迷する状態を指す。

具体的な数字で言えば、1人あたりのGDPが1万ドルを超え、その後も安定的に成長することができたとき、「中所得国の罠」を回避したと言え、先進国の仲間入りを果たしたと見なす。

しかし、過去30年間でこの罠を回避することができた国は韓国とシンガポールのみで、非常に少ない状態にあると言える。東南アジアや南米など世界のほとんどの途上国が罠に陥ってしまった。

2013年に内閣府から発表されたデータで見ると、中国は5年以内に「中所得国の罠」を脱出すると予測されていた。また、2017年に発表されたものによると、中国は1人あたりのGDPが既に1万ドルを超えており、成長率は低下しているものの、ゆるやかな成長を続けることができると予測されているため、私は中国が「中所得国の罠」を回避することができると見ている

図1:中国は5年以内に「中所得国の罠」を脱出する予測(内閣府<2013年下半期 世界経済報告>

(出典:内閣府『2013年下半期 世界経済報告』第1節。)

 

図2:1万ドルを超えた中国のGDP

(出典:内閣府『2030年展望と改革タスクフォース報告書』平成 29 年1月 25 日)

 

さらに、「中所得国の罠」を回避することができた国には特徴があり、東アジア型と東南アジア型の2つのタイプに分けられる。東アジア型には、日本、台湾、韓国、シンガポールなどの罠を回避することができた国々が含まれる。東南アジア型には、タイ、インドネシア、フィリピンなど、罠に陥ってしまった国が多く含まれる。なお、中国は東アジア型とよく似た特徴を持っている。

この2つのタイプの違いは、国民性にある。東アジア型は、勤勉で節約家な国民性を持ち、このような国々では貯蓄率が高く、リスクを軽減させる能力が高いため、東アジア型の国には「中所得国の罠」は存在しないともいえる。一方、東南アジア型の国々は、これらと比較して貯蓄が少なく、発展速度は速いものの、金融危機などが起こった際に一気に減退することが多い。

したがって、中国は過剰貯蓄が指摘されるほど貯蓄率が高いことからも、東アジア型に含まれると言え、「中所得国の罠」を回避できると見ている。このように、近代化を達成する時期を早めたことは、この罠に陥らないというアピールの意味もあったのだろう。

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4.近代化の障害となり得る中国社会の弱点とは

しかし、さすがに2035年までの近代化は厳しいであろう。「2035年」への前倒しはある意味では、「新常態」を否定するような方針だ。連戦連勝し続けているから、頑張れば次も成功するだろうという僥倖心理が働いている可能性がある。このような心理が露呈したのだ。以下では3点の弱点・問題点について触れる。

(1)中国社会の脆い構造

全能主義的な中国の政治体制は政治・社会・経済がすべて結合しているので、思わぬところから問題が起きたとき、他のところへと波及しやすく、場合によっては、全体に及ぶ可能性がある。対して、議会制民主主義の場合は、社会と経済が政治と連動しない或いは連動しにくい。中でも特に日本社会は自動運転のようなもので、政治に問題がおきても経済社会はあまり影響を受けない。

私は、以前から中国はいずれ日本のような自律・自動運転社会になるべきであると主張してきた。現実は共産党政府がすべてを上からコントロールしなければならない。しかし、コントロールの死角は必ず存在する。現在は反応の速さで問題を対処しているが、反応の速度が落ちると不味い。これらは中国社会の脆い構造である。

(2)様々なことに手を伸ばしすぎた

この10年、中国は果てしない所まで手を伸ばした。新型大国関係、周辺外交、BRICs、一帯一路、AIIB、尖閣諸島、南シナ海……。数多くの大ゲーム・大戦略で現在はもう手一杯の状態かもしれない。

それらは多く世界的に展開しているため、他の国・地域では、中国のやり方は必ず成功するとは限らない。寧ろ、必ず何処で躓いてしまうので、これから起きうる問題に対応するため、収縮すべきである。

広げっぱなしの大風呂敷には、包むような大きな中身が殆ど出来てない。今は拡大ではなく縮小して危機に備えるべきだ。

(3)周期的な社会動乱

現在、「整10周年相乗効果」の中にある中国社会は、血が騒ぐ時期にあり、周期的な社会動乱に備える必要がある。というのも、中国社会は10年に1度、特に末尾が6、7、8、9の年に動乱が起きやすいのだ。

現代中国においては、「敏感な社会問題」 と「敏感な記念日」が重なると相乗効果が発揮され、動乱に導かれる現象が時々見られる。国民的なものもあれば、特定な社会階層、地域、民族的なものもある。

例えば、2019年の1年間では、 3月10日の「チベット動乱60年」、4月25日の「法輪功中南海包囲事件20周年」、 6月 4日の「天安門事件30年」、10月1日の「建国70周年」など、「敏感な記念日」が集中しており、社会不安につながる要因である。現に、「チベット動乱50年」の記念集会から2009年のラサ騒乱に繋がったことは、記憶に新しい。

実際、1989年の天安門事件以後の動乱の周期性はこうした「整10周年相乗効果」による部分が大きい。他の社会動乱の基本要因が低下する中、「敏感な社会問題」 と「敏感な記念日」を中心に、民衆と政権側との間の攻防が激化する可能性が高くなるであろう。

問題は、過去100年間に活発な動きを見せた、大学生という中国社会動乱の「活断層」が、1989年の天安門時間以降、沈静化し、次の動乱の発生の場所がわからなくなってしまったことである。とはいうものの、私は対処しきれないような社会動乱が起きることは想定していない。通常、社会動乱など一回問題が起きたら、2、3年のうちに、成長率が2-3%に落ちる可能性が高い。そうなると、「2035年」は危うくなるであろう。

(3)は後日公開。

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