「習近平指導部2期目始動~今後の中国の行方~」(1)[東北文化学園大・王教授]

      2018/04/30

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【特集】「習近平指導部2期目始動~今後の中国の行方~」

習近平総書記が党規約に自らの政治思想を明記し、行動指針としたことなどで注目を集めた、第19回党大会が10月24日閉幕し、翌25日に2期目の習近平指導部が発足した。今回の党大会で行われた政治報告や、人事における注目点について東北文化学園大学で中国政治について研究している王元(おう げん)教授へお話を伺った。

今回の特集では以下の5項目を(1)・(2)・(3)の3回に分けて掲載する。

(1)【本記事】

1.習近平政権1期目を振り返って

2.人事について

(2)

3.今後の政治体制について

4.中国社会の弱点とは

(3)

5.中国を見る目

(以下、インタビュー)

 

1.習近平政権1期目を振り返って

5年間を振り返った習近平総書記は自信に満ち溢れていた

今回の党大会では、習近平総書記の自信に満ち溢れた姿が印象的であった。
3時間20分に及ぶ異例のロング政治報告では、習近平総書記がこれまでの5年間で進めてきた政策や体制に自信を持つようになってきたことが顕著に表れていた。

経済面では、「新常態」を掲げ、ゆるやかな成長を持続させることができた。5年間で進めてきた結果、予想より経済成長の速度が低下しておらず、これからも長期にわたり、6%前後の中高度速度を維持できるという自信を持った。
国際面では、南シナ海問題や対米関係などの問題があったが、どちらも結果的に当初騒がれていたほどは大きな問題とならなかった。予想よりもトランプ新大統領が汲みやすい相手であるし、東南アジア連合の協力で南シナ海問題は中国に有利な形で推移していることは特に重要である。このことによって、国際協調関係において外交問題を処理することができるという自信を持つようになっていったと言える。

また、「社会主義」という言葉を多用することで、他国と中国との比較を強調し、中国の進めてきた政治体制の成功をアピールした。しかし、今回習近平総書記が掲げた社会主義というのは、これまで中国がやってきたことと何ら変わりはなく、社会主義強国というのも、鄧小平が当初掲げた目標より一段階上のビジョンに過ぎないと見ている。
これら成果が習近平総書記に、これまでの自らの政策の進め方が正しかったと確固たる自信を持たせることへ繋げたのだろう。

反腐敗の成果を強調

特に強調したかった成果は「反腐敗」であろう。反腐敗は習近平総書記が最も力を入れた政策である。

党大会では、「国家監察法」を制定する方針が示され、同法に基づき新設される「国家監察委員会」が発足されれば、反腐敗は国家の法の下で常設機関によって長期的に進められるものとなり、党の政策であった「反腐敗」が、党と国が一体となって進める制度となったことは大変大きな意味を持つだろう。

反腐敗を進めるにあたって、腐敗分子を取り除くだけでは不十分であって、腐敗の文化そのものや体制から変えていかなければならないため、このように法の下での常設機関を作って反腐敗を制度化するやり方は有効であろう。反腐敗は任期の区切りである5年間だけでやればいいものではなく、長期的に取り組むべきものである。今後は、香港の廉政公署(汚職捜査機関)のような機関にする可能性がある。

腐敗分子を摘発すれば体制が一時的によくなるかもしれないが、文化はそうはいかない。伝統や習慣の中に腐敗の要因がたくさん含まれている。近代化の一環として文化の面も改革すべきである。中国の反腐敗は始まったばかりだ。

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個人崇拝の高まり

個人崇拝の高まりは、胡錦涛前政権と大分異なり、習近平政権になってから際立つようになったが、今以上に強まることはないと見ている。今以上に個人崇拝を高めることは政敵を増やすことに繋がるであろうし、そもそもこのやり方には限度がある。中国社会の雰囲気は毛沢東時代と大きく変わった。これから国民が監視の目を、批判の声をあげていこうと思うであろうし、しなければならない。
今後は、鄧小平の時代から行われてきた集団指導体制をいかに維持できるかが大きな課題の一つとなる。

 

◇反動による部分

習近平総書記への個人崇拝が高まっている背景としては前時代への反動の部分がある。1978年の鄧小平による改革開放からこれまで、長期にわたって個人崇拝は禁止されてきたが、その間に中国国民の中国政治に対する評価が「成功したもの」という風に変わった。そして、成功の源が毛沢東思想にあるとするのだ

また、最近国内では、文化大革命は個人崇拝など確かに様々な問題があったが、すべて悪い面ばかりではなかったとの評価が見られる。一方、改革開放は良い面ばかりではなかったと思い始める人が増え、これらが改革開放に対する不満へ繋がり、これまでの反動から毛沢東時代への回帰を求める声が高まっている。

このような反動は、定期的に起こりうるものであって、習近平総書記が引き起こしたわけではないが、権力維持のために意図的に利用している部分もあり、多少やりすぎているところもある。これら個人崇拝への高まりをいかに対処すべきかについては、来春開催される全人代で政策や規定が決定されるであろう。

◇個人崇拝の今後

個人崇拝の今後の行方を見る基準として2点挙げられる。1点目は、どのような表現・言葉を使っているかという視点である。最近、「偉大な領袖」という表現が中国の地方紙で使用され、話題となった。今後はこのような強い表現は使用が禁止されていくであろうし、そのような動きからも党中央の今後の方針が見えてくる。

2点目は、制度の問題である。具体的には、習近平総書記の3期目があるかどうかということだ。集団指導体制を維持できるかどうかは3期目の有無にかかっている。3期目があるとすれば、習近平総書記の独壇場となり、集団指導体制は崩壊する。一方、これまでの慣習通り2期10年で任期を終えれば、これまで通り集団指導体制は維持され、個人崇拝は単なる表現上のもので留まることとなり、制度にはならない。重大な突発事件が起こらない限り、私は後者の可能性が高いと思っている。

2.人事について

次期指導者候補を常務委入りさせず

次期指導者候補を常務委入りさせなかったことについては、そもそも早めに入れるというやり方自体に問題がある。現政権が2世代先の指導者まで決める権威性があるのかどうかということである。

2世代先の指導者まで現政権が決めてしまうことは、合理的な部分よりも、その時々の政治的事情に左右される部分が大きい。2世代先まで指導者を早めに決めることができれば、それ自体は悪いことではないが、やはり不都合が生じてくる。早めに常務委入りさせてしまうと、指導者になったときに新鮮味がない。また、政権末期には次の政権へ権力が移行してしまい、レームダックに陥りやすい。

このようにメリット・デメリットが両方ある中で、総合的に判断する必要がある。また、今回に限って言えば、孫政才の失脚や陳敏爾の経験不足によって選択肢が胡春華一択であったというのも要因の一つであろう。一人しかない場合は、万が一失敗した場合、後始末が極めて手間がかかるからだ。

◇3回繰り返すことでルールになる

中国では、「事不過三」という諺がある。即ち、善し悪しに関わらず、ルールは3回で形成されるということだ。

2世代先の指導者まで現政権が決めるという流れは鄧小平時代に始まった。鄧小平は次期指導者に江沢民を選んだが、長老たちからの不安視する声などもあり、もう一人の候補者を立て、どちらかが失敗しても人事の責任を免れるようにした。この人物が胡錦涛である。そして、江沢民が指導者となり、次期指導者に習近平と李克強を選んだ。

このように、現政権が2世代先まで指導者を決めることはまだ2回しか行われておらず、党内において規約になっているとは言えない。今回習近平が次期指導者候補を常務委入りさせなかったことは議論となったが、規則を破ったわけではない。

常務委員には共に仕事をしやすい人物を

常務委員の7人中4人が習派であると言われているが、本当の習派は栗戦書(りつ せんしょ)くらいであって、他はほぼ中立か派閥を作らないタイプであろう。胡錦涛の時は常務委員に各分野の一番強い人物を選んだために、全員をまとめるのが難しくなったということがあったため、その反動もあって習近平は共に仕事をしやすい人物を選んだと言える。

今回常務委入りを果たした王滬寧(おう こねい)は、地方経験こそないものの、これまで果たしてきた役割が大きく、その点が評価されたのだろう。よく観察すれば分かるが、王滬寧は中南海政治の霊魂であり、必要不可欠な存在である。江沢民時代から現在まで、地位が次第に高くなってきたにも関わらず、彼が果たした役割が同じであることも留意すべき点である。

現在中国では、体制や制度を整理整頓する時期に当たり、方針に大義名分を与え、方向付けをするため、政治理論に精通した人物が重視される傾向にある。現に、王滬寧の他に、10月までの政治局には劉延東という、政治学博士号を持つ人物もいた。このようなことから政治体制そのものに対する自らの考えを しっかりと持っている王滬寧の影響力が大きくなっているのであろう。

外交の面においても、西洋の政治思想に精通していて、1990年代以降、中南海政治では歴代の指導者が主役だとすれば、国際経験や知識が豊富な王滬寧は、監督/脚本として裏方で江沢民時代から3人の指導者を支えてきた。天安門事件以降、中国知識人の政治参加の典型的な例である。形は違うが、最近、知識人の政治参加が盛んになり、その受け皿として、数多くの「智庫(シンクタンク)」が設立された。

(2)は後日公開。
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