【特集】「現代中国の社会・政治の変化」(上)

      2017/10/19

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【特集】「現代中国の社会・政治の変化」

今月18日に開催される、5年に1度の中国共産党大会で注目される中国。

習近平総書記が就任して5年を迎えた今、前政権から中国の社会事情や政治がどのように変化を遂げてきたのか。また、党大会後の中国はどこへ向かっていくのか。

東北文化学園大学総合政策学部で中国政治について研究している王元教授にお話を伺った。

(東北文化学園大学王元教授)

 

今回の特集では以下の3点を(上)・(下)の2回に分けて掲載する。

1.社会事情の変化

2.政治体制の変化

3.党大会後の中国

(以下、インタビュー)

 

1.社会事情の変化

-中国は2020年までに「小康社会」を実現すると発表しており、「新常態」という、これまでの高度経済成長と比較して緩やかな成長を遂げている段階に入っている。

その中で雇用や社会保障など様々な分野で中国国民の生活の質を高め、格差社会を改善させようとしている。

この「小康社会」の実現に向けた様々な取組を通して、中国の社会事情は前政権から現在までどのように変化してきたか。-

(1)社会の変化

中国は2020年までに「小康社会」を実現すると発表しており、その2020年まであと3年。

「小康社会」の実現にあたって基準となるものは様々あるが、1人あたりのGDP(PPP方式。物価水準の違いを考慮している購買力平価GDP)で見てみると、2016年、中国は1.54万ドル、日本は4.13万ドル、アメリカは5.74万ドルで、中国は日本の3分の1、アメリカの4分の1であった。

一方、2016年の世界に占めるGDPのシェアにおいて、中国は17.1%で、15.8%のアメリカを抜いて1位となり、4.3%の日本の約4倍であった。2011年には中国とアメリカの割合がちょうど逆であったので、5年間で逆転したと言える。さらに、20年ほど前は中国は日本の30分の1であったことを考えれば、かなりのスピードで経済成長を遂げているといえる。

また、最近中国では毎年1億人以上が海外旅行をしており、海外旅行がブームとなっている。これは海外旅行ができるほど余裕のある人が増えているということを意味し、国民の生活水準が向上していることを示す材料になりうる。

このほか、私は実際に中国を訪れたときに、都市開発のスピードのはやさを実感した。北(京)上(海)広(州)深(セン)など一線都市のみならず杭州、蘇州、成都や重慶などの二線都市でさえもこれだけ進んでいるのかと驚いている。

以上のことから私は中国が「小康社会」を既に実現させたとみている

 

(2)新常態について

 

中国は、鄧小平による改革開放以降、大幅な経済成長を遂げ、現在は「新常態」という、より穏やかで持続的な経済成長を目指すことを掲げている。

私はあえて「新常態」ではなく、「真常態」と表現するが、これは「新常態」の良い側面は中国のかつての「常態」に過ぎないと考えているからだ。中国は歴史上長い間「小康社会」であったことから、現在それを回復したに過ぎない。

昨今、経済成長率の低下など様々な問題が顕著になってきたが、これは「新常態」の悪い側面とされている。しかし、先進国家の経済成長の速度は皆低く、「小康社会」を実現した中国の経済成長の速度が低下することも自然の摂理である。

また、「新常態」は一種の安定志向とも言える。改革開放の成果を守るため、無理やり高い経済成長の速度を追求しない、より質のある成長を目指すということである。

中国国内に「新常態」を批判する学者がいる。というのも、長い高い経済成長とともに社会的格差、環境問題、政治腐敗の拡大を招いたためだ。これらは「新常態」の直面する問題でもあり、「新常態」の目的はこれまでの経済成長の方向性や勢いを保ちながらこれら問題を解決することである。このように、中国は速度を落としながらも成長を続け、これまで蓄積してきた問題を解決していく状態にあるのだ。

 

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(3)雇用について

 

中国では昔は、「1%の経済成長は100万人の新規雇用を生み出す」と言われ、毎年卒業して就職する大学生の人数は約700万人であるので、7%の成長率が崩れると社会が不安定になるとされていた。しかし、3年前から成長率は7%を下回っているものの、求人倍率が高まっているため、今はそれほど問題となっていない。

実際、内陸ではインフラ整備が進み、そこへ東部などの工場が移ってきたため、都市部に行かずとも若者が地元で就職できるようになってきている。これにより、東南の一部の地域で、人手不足(いわゆる「民工荒」)現象が酷くなり、中小企業の業績に影を落としていると言われている。日本と同じ様に、少子化は中国の就職難をある程度、緩和する面がある。その一方で就職できない若者も多いが、これは企業とのミスマッチによるものであり、昔のように数字だけでは実情を把握することは難しくなっている。

 

(4)格差問題について

◆格差の基準

中国では格差が大きいとよく言われるが、これは主にジニ係数を基にした、収入の格差について述べられているものだ。

昨年時点での中国のジニ係数は0.462(46.2%)で、安全基準が0.42(42%)であることを考えると多少上回るため、格差が大きいといわれるのである。

しかし、私は格差を見るにあたっては、ジニ係数と併せて、各国それぞれの富裕層の上位10%が全体に占める富の割合も見る必要があると考えている。

(出典:成美堂「今がわかる時代がわかる世界地図2016」)

ジニ係数の示す所得分配の不平等さが社会の格差にすぐに繋がるわけではない。この状態が10年20年と、長期間続くと社会の格差になるのである。

ここで先ほど述べた、各国それぞれの富裕層の上位10%が全体に占める富の割合を見る必要が出てくる。この数値で見れば、実際中国は60.8%で、49.1%の日本よりは割合が高いが、75.4%のアメリカや、73.8%のインドに比べればまだそれほど高いとは言えない。特にインドは、ジニ係数が0.36(36%、2004年)であるにも関わらず、この割合が非常に高い。したがって、ジニ係数のみで格差を測るのは力不足と言える。

このように、この20年間で急速に成長してきた中国は、一部富裕層への富の集中は最近のことであって、もちろんこのまま放置すると格差は拡大するだろうが、現時点で習近平政権が手を打てば問題ないだろう。現に習近平政権になってからの5年間でジニ係数は縮小している。(参考:2008年0.49、2012年0.47、2016年0.465)

 

◆具体的な取組

(NHKスペシャル データマップ63億人の地図)

 

中国は1990年以降、8億人を貧困から脱出させ、国連から高く評価された。世界銀行のジム・ヨン・キム総裁も10月12日、世界銀行及び国際通貨基金(IMF)年次総会の記者会見において、中国の貧困人口減少の成果を「人類史上、最も偉大なストーリーの一つ」と形容した。貧困層はまだ残っているが、脱貧困させた人数でいえば、世界の大半を占める。中国のように政府の力が強い国は強力な政策を作ることができるため、このような多くの人々を貧困から脱出させることができたのだろう。

具体的な取組としては、4点挙げられる。

まず1点目は、税制改革により、中央政府の財政力が強化されるにつれ、経済発展が遅れ、財政力も弱い少数民族地域への優遇財政制度が本格的に進められてきたことが挙げられる。チベットをはじめ、寧夏、内モンゴル、青海への一人当たり専項移転支払は全国平均の2倍以上になり、中央政府による財政支援は人口の少ない西部地域の格差縮小にも効果的であるといえる。

2点目は、胡錦涛政権から継続して行われている中西部の大開発である。東部に比べ貧困層の多い中西部にとって、最も必要であったインフラ整備に力を入れ、道路、通信の整備を行った。また、東部に集中していた工場を内陸部へ移動させ、新たに雇用を生み出した。これによって出稼ぎしなければならない人が減少し、地元で働くことのできる人が増加したのである。

近年、東部のGDPの成長率は5-6%まで低下したが、少数民族地域では依然として2ケタ成長が続いている。現在は内モンゴル自治区(一人当たりGDPは74203元で全国7位、広東省が8位)、新疆ウイグル自治区(同21位、黒竜江省が22位)とチベット自治区(同27位、山西省が28位)など、少数民族地域が豊富な自然資源と観光資源を活かした経済成長を遂げ、漢民族との間での収入格差はほとんどなくなった一方で、中部の貴州省(同29位)、雲南省(同30位)と甘粛省(同31位)などは未だそれほど経済成長を遂げられていないのが現状である。

(NHKスペシャル データマップ63億人の地図)

 

3点目に、農民に対して納税の免除を行ったことが挙げられる。中国政府は当初、農業税を2004年から5年間で段階的に廃止するとしてきたが、その計画を前倒して、2006年1月1日から農業税を全廃した。これもジニ係数の改善の一要因であろう。

4点目に、教育制度の充実も取組として挙げられる。多くの工場は高卒の資格が必要であるため、現在の中学校までの義務教育に加え、これから高校まで義務教育にする可能性が高いと見ている。このようにして、東部から移動してきた工場で働くことのできる従業員を増やし、貧困層の収入増大へと繋がっていくのである。

以上のことから、中国ではジニ係数の数値のみで見ると基準値を上回っているが、様々な取組が功を奏し、格差は縮小に向かっている。

実際、中国は収入の格差をテコとして経済を発展させてきた一面がある。数値が良ければ、今後中国政府は経済成長の促進のためにも格差を是正する力を弱める可能性もある。そのため、中国のジニ係数が大きく改善する可能性も低いと言える。

(出典:中国国家統計局)

また、現在の政策のままで進めていけば更に小康社会は進んでいくと多くの人が推測しており、中国政府としてもこの方向性に自信を持つようになっている。

 

 

(下)に続く

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