【連載】ロシアの実像を探る (1)日本人の対ロ感情[茅野 渉]

      2018/04/30

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日本人のロシアに対する印象とは。

首都・モスクワ「赤の広場」に並ぶ歴代指導者の胸像(出典:https://pixabay.com)

 

ロシア、と聞けば、多くの方が「ン?」という顔をされるのかもしれません。そのイメージを問われると、日本人なら「暗い」、「寒い」、「怖い」とかの返事が口をついて出てしまうでしょう。そのどれも、人気や関心にあまり縁があるようには聞こえません。

日本人にとってロシアが人気のない国、ということは、これまでの世論調査の結果からも確かめることができます。1978年から毎年、内閣府の政府広報室が「外交に関する世論調査」(https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-gaiko/2-1.html)を行ってきました。この調査の一項目として、幾つかの国への親近感が設問されています。

その最近の結果(昨年10~11月の調査、対象3000人、有効回答1803人)を見ると、ロシアに「親しみを感じる」と答えた人は18%、反対に「感じない」という答えは78.1%でした。

「親しみを感じる/感じない」を「好き/嫌い」と言い換えるなら、8割の人が「ロシアは好きではない」ということになります。同じ設問で米国の場合は、「親しみを感じる」/78.4%、「感じない」/19.1%、ですから、米ロでは好き嫌いがちょうど逆になっています。

この問いへの答えが、中国の場合は18%/78.1%、韓国で37.5%/59.7%ですから、中国も相当嫌われているということになります。なにもロシアだけが、という状況ではないのかもしれません。

けれども、過去40年間のこの調査の結果を眺めてみると、米国の場合は一度も「好き」が「嫌い」を下回ったことはありません。常に日本人に好かれる国ということになります。

中国は1995年までは「好きな」相手でした(「嫌い」が急速に増えたのは2004年以降)。韓国も長らく「好き」/「嫌い」が互いに入れ替わってきましたが、今のように「嫌い」が大きく増えたのは2012年以降です。

その中で、ロシアだけが一貫して、一度も「好き」が「嫌い」を上回ったことがありませんでした。好き嫌いの差がもっとも縮まった時ですら(1991年、ゴルバチョフの時代でした)、25.3%/69.6%で、ロシアが好きな人は全体の1/4に止まっています。

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日本人がロシアに親しみを感じないのはなぜか。

ソ連の象徴である「鎌と鎚(ハンマー)」、「五芒星」(出典:https://pixabay.com)

 

なぜ、このような結果になるのでしょうか。考えてみるとその主な原因なり理由なりは、現代史と今の日ロ関係の中に求められるようです。

第二次世界大戦は、1945年8月に日本が無条件降伏を受け入れ、9月にその文書に署名して終わりましたが、その直前に当時のソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して日本への武力攻撃を開始しました。

その結果、ソ連は満州(現在の中国の東北3省)、朝鮮半島北部、樺太(サハリン)、千島列島を支配下に収めました。満州からは後に引き上げたものの、朝鮮半島北部の占領は今日の北朝鮮を生み出し、千島列島の占拠は今でも解決されていない日本との北方領土問題の種を蒔くことになります。

このソ連軍の侵攻が日本人にとっては、いかにも火事場泥棒そのものに見えました。そして、条約も反故にして、相手が弱ったところに付け込んで襲ってきたことに対し、「不正」と「卑怯」を先ず感じたものです。

そして、攻撃の過程で非戦闘員へ加えられた様々な暴力行為や、国際法を無視して行われた60万人を超える戦争抑留者への扱いから、ロシア人への「野蛮・残忍」というイメージも加わります。

戦後の冷戦の一方の領袖であったソ連は、それが消滅する1991年までこうした日本人の中の負のロシア像を薄めることはできませんでした。米ソ対立の中で、1980年代前半には米国から「悪の帝国」という烙印も押されます。米国の同盟国である日本も、当然そうした見方に同調していきます。

そのソ連が崩壊したらしたで、今度はそれまで彼らが唱えていた社会主義の優位性が実は神話に過ぎず、その経済が想像以上にひどいものだったことが白日の下にさらされる結果になりました。

軍事力は兎も角、経済の面では三流以下の国と見なされるようになり、「核兵器を持った途上国」といった呼び方までされる始末です。とても、外国が尊敬できるどころの相手ではありません。

といった具合です。現代史の中からはどこにも好きになれるような魅力が出てこない国のようにも思えてきます。ロシアという国名の響きに人気がないのも、宜なるかな、です。

 

横たわる領土問題、対ロ感情が改善する可能性はあるのか。

(ロシア西部の文化都市・サンクトペテルブルクの街並み、出典:https://pixabay.com)

 

過去がそうだとして、では現在はどうかを考えると、日ロ関係には上でも触れた領土問題がいまだに鬱陶(うっとう)しくぶら下がっています。双方にそれぞれの言い分があるものの、日本人の大多数には、ロシアが「他人のものを勝手に奪い、謝りもせず、それを返さない国」という印象が残っています。

この問題に加えて、欧米諸国や中国などと違って、日本にいると今のロシアを知る機会や縁(よすが)がほとんど無いということも、対ロ感情改善が図れない大きな理由の一つでしょう。

身の周りにロシア人が至る所にいるわけでもありませんし、魅力的なロシアの商品がスーパーやコンビニに出回っていて噂のタネになるということもまずありません。つまりは、日本人にとって馴染みになれる場が非常に少ないのです。

さて、こうした隣人とうまく付き合っていけるのでしょうか。

次回以降でその可能性を探っていこうと思いますが、一つのヒントは、上で紹介した内閣府の世論調査の中にあるように思えます。確かに8割がロシアを嫌いと答えているのですが、回答者を年齢層に分けて見てみると、若い年齢層(18~29歳)とそれ以上の層でかなりの差がみられます。

若い年齢層での「好き」(親しみを感じる)が25.6%、それ以上が何れの層でも10%台となり、若い方々の方がどうやらロシアに対する抵抗感が薄いと言えそうです。

つまりは、心理的な障壁のようなもので目詰まり気味だったこれまでの日本人のロシア観といったものが、次の世代を担う若い方々によって徐々にでも変わっていくかもしれないということなのです。

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ロシアとのビジネスに長く携わってきた者として、今回からこの政治プレス新聞社にそのロシアについて書かせていただくことになりました。今後とも、よろしくお付き合いの程をお願い申し上げます。

茅野 渉(Chino Wataru)

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