「自由で開かれたインド太平洋戦略」とその課題

      2019/03/14

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TICAD VI(第6回アフリカ開発会議)

ケニアで開催された第6回アフリカ開発会議に出席する安倍総理(出典:内閣府HP)

安倍総理は2016年8月、ケニアで開催されたアフリカ開発会議の席で、「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo- Pacific Strategy:FOIPS)」を打ち出した。この戦略は、①法の支配、航行の自由などの基本的価値の普及・定着、②連結性の向上などによる経済的繁栄の追求、③海上法執行能力構築支援などの平和と安定のための取り組みの3つを柱としている。
FOIPSは、日本と米国、オーストラリアとインドの4カ国を中心とするセキュリティダイヤモンド構想を基にしているが、FOIPSの各論を巡る議論が進むにつて、それが直面するいくつかの課題も見えてきている。

FOIPSが抱える課題

まず初めに、FOIPSを取り巻く状況として、貿易摩擦やファーウェイなど、米中の緊張が増すにつれ、FOIPS自体が対中ヘッジ的な意味合いが強くなっている。日本も、「FOIPSは中国を念頭に置いたものではない」「一帯一路構想と対立するものではない」との姿勢を示しているが、債務帝国主義的な経済支援,南シナ海での人工島建設などその覇権的行動が顕著になるにつれ、FOIPSは対中を意識した包囲網的な意味合いが強くなっている。FOIPSの第一の課題としては、中国をも取り込んで行く理念を持っているものの、米国や日本、オーストラリアが持つ中国への安全保障上の懸念は根強く、現在の米中情勢等を踏まえると、中国の加入は現実的ではないだろう。

第二に、現在FOIPSの中核となっている米国と日本、オーストラリアとインドでも、中国についての考え方に違いがある。米中は安全保障面・貿易面でともに対立関係を高めているが、インドやオーストラリアは貿易面で中国に深く依存しており、あからさまに反中的姿勢に出ることは難しい。例えば、インドのモディ首相は去年6月、シンガポールで開催されたアジア太平洋安全保障会議の演説で、FOIPSを歓迎する一方、FOIPSは限られた国々によるクラブではないとの姿勢を示した。また、インドは一昨年、オーストラリアが日米印の合同軍事訓練「マラバール」に参加を要請した際にそれを拒否するなど、中国に配慮する姿勢が見られた。

FOIPSの今後

今後は、FOIPSの各論をどう進めていくかが課題だ。FOIPSの理念やビジョンには多くの国が賛同しているものの、米国やインド、オーストラリア、ASEAN諸国の間では中国を巡って認識の違いがある。今日の米中競争の行方によっては、軸となる4カ国間での隔たりが一層大きくなることも予想される。

一方、FOIPSにはフランスやイギリスも関心を持っている。イギリスはインド洋にチャゴス諸島を、フランスは南太平洋にニューカレドニアなど領土を持っているが、特に、フランスは南太平洋で影響力を高める中国への懸念を強めている。仮に、米中関係の激化というシナリオがこのまま進む場合、日本としてはフランスやイギリスをFOIPSの中に一層組み込むという戦略も重要だろう。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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