緊張が高まるインド・パキスタン

      2019/03/14

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インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で2月14日、パキスタンを拠点とするイスラム過激派「ジェイシュ・ムハンマド(JeM)」が、インド軍の治安部隊を狙った車爆弾テロを実行し、軍兵士40人以上が犠牲となった。この規模のテロ事件は、近年のカシミールでは見られない。

このテロを機に、印パの緊張が高まった。それ以降、インド軍はJeMの拠点を空爆したり、パキスタン領内に向けて砲撃したりする一方、パキスタンは追撃したインド軍戦闘機のパイロットを一時(今月1日)解放するなど、双方の応酬が続いた。

3月に入っても緊張は続いている。両軍は2日、双方の実効支配地域に向かって無差別に攻撃し、女性や子供など現地住民を中心に7人が犠牲となった。7日には、ジャンム・カシミール州ジャンム市のバス停で手りゅう弾が爆発し、1人が死亡、32人が負傷した。その後、パキスタンのイスラム過激派組織「ヒズブル・ムジャヒディン(HM)のメンバーが逮捕された。

同月3日以降、両国を結ぶ急行列車の運行が再開し、パキスタンも召還していた大使を再びインドへ戻すことを決定するなど、情勢は落ち着く方向に向かっているように見えるが、両軍はカシミールの境界線付近に兵力を増強し、断続的に軍事的な応酬が続いており、依然として予断を許さない情勢が続いている。

1回のテロ事件が招く両国の軍事的緊張

(パキスタン陸軍公式HPより)

(パキスタン陸軍公式HPより)

この問題について、国内のメディアや専門家は、印パリスクとして両国間関係に焦点を当てた議論を展開しているが、筆者はテロ研究者として、以下の点を指摘したい。

まず、テロという行為に潜むリスクだ。時として1回のテロ事件は、巻き込まれた人々が被る身体的な被害だけでなく、交通渋滞や公共交通機関の運行停止、航空機の離発着など国際空港の閉鎖、より深刻になれば、デモや暴動、国家間の軍事的衝突に発展することもある。

今回のケースでは、小規模ではあるものの、双方で軍事的な衝突が発生したわけだが、一部の航空会社はインドやパキスタンに向かうフライトの停止、飛行ルートの変更を余儀なくされ、一時、パキスタンの空港は閉鎖される事態となった。1回のテロ事件で社会の混乱などに発展するケースは決して多くないが、今回のように1回のテロ事件で軍事的な緊張に発展する場合もある。

南アジアのイスラム過激派の動きにも要注目

もう1つは、南アジアのイスラム過激派の動向だ。今回の緊張の発端は、両国ではなく、JeMによるテロ事件だった(JeMとパキスタン当局のリンクは別途検証する必要があろう)。JeMは、カシミール地方のインドからの分離・独立を目指すイスラム過激派で、歴史的にはアルカイダやタリバンなどと関係があるといわれる。今回の緊張が、JeMなどカシミールのイスラム過激派の活動を活発化させることのないよう祈りたい。

また、近年では、カシミール地方を拠点とするイスラム国(IS)支持者の活動が見られるようになり、首都デリーでは、IS関連のテロ未遂事件も発覚している。さらには、差し迫った脅威にはなっていないものの、テロ研究者の間では
インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)の動きを懸念する研究や分析が以前より盛んにみられる。印パ関係という国家間リスクの他に、こういったテロ組織の動向にも注意が必要だろう。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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