2018年の国際テロ情勢を振り返って

      2018/12/25

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今年も終わりが近づいてきた。今年の国際テロ情勢をどう振り返ることができるだろうか。今年の安全保障情勢を振り返ると、やはり北朝鮮情勢の激変が読者にとっても最も印象に残っている出来事だろう。米朝の緊張が高まる中、2月の平昌オリンピックあたりから北朝鮮の態度が軟化し始め(韓国で文在寅政権が誕生したことが大きいが)、6月の米朝首脳会談へと繋がった。しかし、その背後には北朝鮮による米中関係を利用した天秤外交があり、今後の見通しでも不透明なことが多い。

それと同じように、(幸いにも?)今年は日本メディアの注目がそれほど集まらなかった国際テロ情勢も、依然として不透明な点が多い。今週の論考では、今年の国際テロ情勢を振り返り、来年の行方について筆者なりの考えを示してみたい。

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国際テロは事件数・死傷者数で近年最も小さい数字に

(出典:IEP 2018 GLOBAL TERRORISM INDEXより)

 

落ち着いていたという言葉が適しているかは別として、今年の国際テロ情勢は、事件数、死傷者数ともに近年では最も少ない数字を記録しそうだ。

近年では、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の台頭により、事件数、死傷者数ともに2014年から2016年あたりにかけて最悪の数字を記録したが、ISの領域支配が終焉を迎えるにつれ、事件数や死傷者も大きく減少傾向へと傾いた。特に、今年、欧州では大きく改善を見せた。オーストラリアに拠点を置くシンクタンク「経済平和研究所(IEP)」が12月上旬に発表した統計によると、2017年の欧州におけるテロの犠牲者数は、前年比75%も減少(3年連続の減少)し、ISによるテロの犠牲者数でも52%の減少となった。

しかし、その一方、欧州や北米などでは白人至上主義によるテロ事件が増加傾向にある。米国やカナダ、英国やフランスなどでは、移民・難民に反対する白人至上主義者によるイスラム教徒、ユダヤ教徒、黒人などを狙ったテロ事件が近年目立っている。事件数や死傷者数が減少しているからといって、油断はできない。その中には新たな危険なトレンドを含んでいることもある。

減少傾向=治安改善と見るのは時期尚早

全体として、事件数、死傷者数とも減少傾向にあるが、今後もそれが続くかは全くの不透明だ。例えば、ISやアルカイダなどサラフィージハーディストの情勢を見ても、いくつかの懸念がある。

まず、ISのような21世紀の国際秩序に大きな影響を与えてきたイスラム過激派は、依然としてその暴力的過激主義を放棄する姿勢を全く崩していない。また、それに支持を表明する組織も中東やアフリカ、南アジアなど各地域で活動しており、イラクやシリアから逃亡したIS戦闘員はそれら組織を隠れ蓑とし、ISの再生を図ろうとしている。さらに、ISなどが掲げる暴力的過激主義は依然としてサイバー空間で一定の影響力を保持しており、それに何かしらの刺激を受ける者が単独的にテロを起こすリスクは全く変わっていない。

来年の国際テロ情勢においても依然として上記のようなリスクが残る。減少傾向を治安の改善と見るのは時期尚早だ。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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