ジハーディストはいまも健在?IS支配領域崩壊後の世界を観る

   

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(Photo by Zyzzzzzy)

 

11月20日、ワシントンに拠点を置く超党派のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、イスラム国(IS)やアルカイダなどサラフィージハーディストに関する新たな報告書「 The Evolution of the Salafi-Jihadist Threat Current and Future Challenges from the Islamic State, Al-Qaeda, and Other Groups(邦題:サラフィージハーディストの進化-IS、アルカイダ、その他の組織による脅威の過去と現在)」を公表した。それによると、ISなどが掲げる暴力的な過激主義に共鳴する戦闘員たちは、今なお中東やアフリカ、南アジア、東南アジアなど各地に10万~23万存在し、国別では、中東を筆頭にシリアに4万3650人~7万550人、アフガニスタンに2万7000人~6万4060人、パキスタンに1万7900人~3万9540人などとなっている。また、それに関係するイスラム過激派は世界各地に67組織存在し、2001年から約1.8倍に増えている。これら統計が完全に当たっているとは言えないが、ISによる領域支配はほぼ崩壊したものの、依然として国際的なテロの脅威が残っていることを同報告書は示唆している。

米シンクタンク報告書が示唆する意味

ではこの報告書は何を示唆しているのだろうか。まず、この報告書は防衛・安全保障的視点から書かれていることを頭に入れておく必要がある。今日も変わることなく、IS系組織やアルカイダ系組織によるテロ事件は各地で続いている。しかしその大半は、各国・各地域の軍や警察、地元の政治家や民間人などあくまでも“ローカル”なアクターを標的にしたものであり、欧米権益を狙ったものではない(言い換えると、国際的なテロを実行できるほど余裕がない、ローカル>グローバルな戦略、もしくは国際的なテロ対策が機能しているとも言える)。ISなどが掲げる過激思想の影響を受けたとみられる個人によるテロ事件は特に欧州で続いているが、中東やアフリカに拠点を置くIS系、アルカイダ系組織が欧米諸国で実行したテロ事件(未遂を含む)は非常に限られている。こういった現実からすると、地域研究者の中には、テロ対策、危機管理の関係者は脅威を過大に煽っていると思う方々もいることだろう。そういった意見を、安全保障研究者である筆者は尊重し、両研究領域を十分に精査した上で、今後一層中立的で冷静な脅威評価を行っていかなければならない。

 

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安全保障的側面からみる各地域のテロ情勢

(Photo by Voice of America News)

 

しかし、安全保障的な側面から考えると、同報告書が示す統計を軽視することはできない。安全保障において、脅威となる対象は意思と能力よって判断されるのが基本である。それに照らすと、今日のISやアルカイダといった存在は国際的で大規模なテロを実行する能力はなくても、その意思は強く持ち続けている。反欧米を掲げる動画や画像は常に発信され続けている。このような領土を持たない非国家主体は、例えその能力(軍事力や組織力など)が衰退したとしても、形態や場所を変えて新たな脅威を作り出すことが可能で、また、それがいつ、どこから、どのような形で表面化するかが分からないところが最も懸念される。今回の報告書でも、現在のアルカイダ系組織は、自らの地固めのためローカル戦略を重視し、反欧米のトーンを下げているだけで、今後再び反欧米戦略を重視するようになるとの分析がなされている。今後のテロ情勢がどう動くかは分からない。しかし、安全保障的側面からすると、決して油断できる情勢ではない。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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