ロシアが北方領土を譲れない理由とは?-北方領土が安全保障上持つ意味

   

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シンガポールで見え隠れした日露両首脳の隔たり

安倍総理は14日、訪問先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談した。会談後、安倍首相は来年明けにロシアをすることを明らかにし、1956年の日ソ共同宣言に基づいて、プーチン大統領とともに平和条約の締結、そして北方領土問題の解決に向けて交渉を加速させることで合意したと発表した。
しかし、会談の翌日、プーチン大統領は北方領土問題について改めて記者から質問されると、「日ソ共同宣言には平和条約の締結後、歯舞・色丹の2島を日本側に引き渡す文言が明記されているが、何を根拠に、またどちらの主権になるかなどは書かれていない。よって今後議論が必要だ」との認識を示した。

北方領土が安全保障上持つ戦略的意味とは

なぜプーチン大統領は、上記のような発言をしたのであろうか。これには日本へ揺さぶりを掛けるなどいくつかの理由が考えられるが、1つに安全保障上の思惑が見え隠れする。北方領土が両国にとっての領土問題であることはその通りであるが、プーチン大統領の発言の真意は安全保障上の立場からロシアの立ち位置を考えることで明らかになる。

日本側にとっては、北方領土問題はロシアとの領土問題であるとの意味合いが強いが、ロシアにとってはそれだけではなく、日本の背後にある米国の存在が戦略的に重要となる。歯舞・色丹の返還は、島の規模や漁業権に照らしてロシアにそれほど大きな経済的損益はないと我々は思うかも知れないが、ロシアにとってはそう単純な話ではない。返還によって主権が日本に移るということは、施政権が日本に移り、それは安全保障上、日米安全保障条約第5条に基づく米軍の対日防衛義務の適用対象となる。言い換えると、米国の軍事的影響力の範囲が、国後・択捉の目の先まで北上することになり、“北の海”での覇権を握りたいロシアとしては避けたいシナリオなはずだ。

安倍首相は、14日の会談の中で、米軍や自衛隊の基地が建設されることはないと伝えたらしいが、ロシアにとっては簡単に頷ける話ではなく、仮に今後歯舞・色丹の主権が日本へ移り、米ロの対立がさらに先鋭化するというシナリオがあれば、その際、米国側から何らかの軍事的要求が日本にあるかも知れない。

北極海へ興味を強める中国 大国の関与で複雑化しうる日本の領土問題

また、近年中国は北極海への興味を強めている。これについては以前に筆者は論考を書いた事があるが(外部リンク)、北極海には未発見の原油や天然ガスが大量に眠っており、エネルギー安全保障上、中国にとって魅力的な海域であることは間違いない。中国にとっての北極航路の途中には、日本の宗谷海峡や津軽海峡(その後に北方領土近海を通る)があり、それらを航行してベーリング海に向かうことから、ロシアとしても注視していることだろう。現在のところ、中国の“北の海”への進出が、ロシアの安全保障に何かしらの影響を及ぼしているわけではないが、“北の海“での覇権を狙うロシアにとって、自らの支配領域で米国や中国の動きが顕著になることを黙視はできないはずだ。ロシアにとって、北方領土は単なる領土問題ではなく、米国や中国といった大国が絡む安全保障上の問題でもある。これが、日本との領土問題の解決を困難にする1つの要因である。

和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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