エジプトのテロ情勢の今後

   

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エジプト中部ミンヤ県で2日、エジプトでは人口の1割程度を占める少数派、キリスト教一派であるコプト教の信者が乗るバスが待ち伏せていた武装勢力の襲撃に遭い、信者7人が死亡、13人が負傷した。エジプトでは近年、IS系組織によるコプト教徒を狙ったテロ事件が繰り返し起こっている。今週の論考では、近年のエジプトのテロ情勢を振り返り、今後の情勢について考えていきたい。

繰り返されるIS系組織によるコプト教徒を狙うテロ事件

エジプト・アスワンにある、コプト正教会の聖ミカエル大聖堂の内観。(photo by Steve F-E-Cameron (Merlin-UK))

エジプト・アスワンにある、コプト正教会の聖ミカエル大聖堂の内観。(photo by Steve F-E-Cameron (Merlin-UK))

コプト教徒が襲われるテロ事件は、大きいものでこの2年間で3件ある。実は今回の事件と全く同様に、2017年5月、ミンヤ県を走行中のコプト教徒を乗せたバスがIS系組織の襲撃を受け、29人が殺害された。また、2016年4月には北部アレクサンドリアとタンタにあるコプト教会で自爆テロ事件が発生し、40人以上が死亡した。このようなテロ事件は、多くの死亡者、負傷者を出しているだけでなく、イスラム教とキリスト教という宗教的な分断を招き、エジプトで10%程度とされているコプト教徒に恐怖や不安を与えている。

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エジプトのIS系組織とIS中枢との関係性

今回の事件でもISの公式メディアが犯行を認める声明を出したが、実際のところ、多くの人はどこまでISが関与しているかに疑問を持つことだろう。これについて全容を解明することは難しいが、簡単に説明すると、要は、ISの指導者であるバグダディ容疑者を筆頭とする幹部たちが、中東から具体的な命令・指示を出してテロを実行させているのではなく、ISに指示を表明する組織が自らの判断でテロを実行しているという方が実態に近いだろう。

エジプトなど各地で活動するIS系組織のメンバーは、イラク・シリアから第三国に渡った者、もしくは戦闘員として帰還した者もいる一方、その多くが社会経済的な不満を抱く地元の若者である。そのような地元の若者が独自に現地でテロを実行し、ISが後にそれを自らの行為として追認しているという方が実態に近いだろう。

IS系組織によるテロはシナイ半島に留まらない

エジプトのIS系組織は、東部シナイ半島を拠点とするイスラム過激派組織「アンサール・ベイト・アルマクディス」が2014年11月にISへ忠誠を表明したことを発祥としており、それ以降、「ISのシナイ州」を自称している。このIS系組織によるテロ事件は、シナイ半島で警備にあたる軍や警察を狙ったものが殆どであるが、上記のようにカイロ南郊や北部アレクサンドリアなど各地でみられるようになっている。

エジプトのシシ政権はISのシナイ州へ圧力を掛け、同組織の勢力が国内に及ぶことを懸念するイスラエルと治安面で協力を強化しているが、エジプトの“テロとの戦い”は終わりの見えない状況が続いている。シナイ半島にはびこる社会経済的な問題等を解決していかない限り、負の連鎖は止まりそうにない。

和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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