マレーシアの大地と中華の文明:華人作家 黄錦樹

   

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今年の5月に行われたマレーシアの総選挙では、2003年まで長きにわたり同国の首相を務めたマハティール氏が首相の座に返り咲いた。再び首相に就任するやいなや、日本との関係を重視した「新ルック・イースト政策」を打ち出す一方で、中国が支援する鉄道敷設計画の中止を発表するなど、今後の動向に注目が集まる。同国と中国との関係を考えるうえで見逃せないのが、人口のおよそ四分の一を数える中国系住民(華人)の存在である。

マイノリティである華人にとって、民族の独自性を保つ重要な手段は、言語と教育であった。華人の多くは、中国南方の福建省や広東省にルーツを持ち、先祖の地の方言を受け継いでいる。しかし、中国語教育の場では、本土の標準語である「華語」が用いられ、異なる方言集団からなるグループを統合する役割を果たしている。彼らの中には、華語を用いて創作する者もいる。

ゴム園の農民としての華人

天然ゴムの原料となるラテックスの採取の様子(Photo by RPA)

天然ゴムの原料となるラテックスの採取の様子(Photo by RPA)

マレーシア華人文学の代表的作家である黄錦樹は、マレーシア南部ジョホール州の出身であり、父親はゴム園の貧しい農民だった。そのルーツは彼の作品にも影響を与えており、故郷を舞台とした作品で描かれるのは、農民として愚直に生きる華人の姿である。

「きれいに整備されたゴム園は、遠くまで見通すことができる。女性たちはしばしば異なるゴム園をへだて、長い距離をおいて、大声であいさつしたり、おしゃべりしたりお互い助け合うこともあった。しかしゴム園がジャングルになると、トカゲやキジがあっというまに繁殖し、野鳥や猿の群れが住みつく。ひどく危険な場所になってしまうのだ。」(「火と土」『夢と豚と黎明』収録)

ゴムを採るかたわら、父は家族を養うため、様々な種類の野菜や果物を植えていた。

「樹を植えることについての父の考えはかなり素朴なものだった。種を土の中に入れ、芽が出れば、それが土地に受け入れられたということだ。同時にそれは、樹が異郷の土地を受け入れたということでもある。樹が大きく育つと、毎日そばを通るときに花を咲かせていないか、実がなっていないか眺める。」(「旧家の火」『夢と豚と黎明』収録)

こうして、父は子供たちを育て、成長した子供たちは各地に散ってゆく。異郷の大地に根差しながら、力強く生きる樹々は、そのまま華人の生命の比喩でもあるだろう。

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春申游客
地方大学の大学院で中国近現代文学を学んでいる。過去に上海に語学留学の経験あり。地方の小説を読んで誌上旅行するのが趣味。

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