ラマダン(断食月)におけるテロ事件の推移

   

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一方、フランチャイズ化したISの脅威というものは、中枢組織が勢いを失ったからといって消えるものではない。SITEが公表したこの統計を見ると、それが明白となる。ラマダンの間にIS関連のテロ事件が報告された国は、シリア・イラク以外ではアフガニスタン、アルジェリア、オーストラリア、ベルギー、エジプト、フランス、インドネシア、イラン、イスラエル、インド(カシミール)、リビア、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、ロシア、ソマリア、チュニジア、英国、イエメンが挙げられている。

まず、2017年から事件数が減少した国としては、アルジェリアやオーストラリア、イラン、イスラエル、英国があるが、これら5カ国は2017年のラマダンの間に1,2件の報告があったが、2018年はゼロとなった国だ。他の国ではフィリピンが21件から2件に、エジプトが10件から7件に減少したが、フィリピンのケースではISの協力組織「マウテグループ(Maute Group)」によるマラウィ占拠の崩壊が背景にあるだろう。エジプトでは若干ながら減少したものの、依然として「ISのシナイ州」の活動は続いており、大きな変化は生じていないのが実態だろう。

一方、増加した国は、アフガニスタン(16件→40件)、ベルギーとフランス、ナイジェリア、インド・カシミール(0件→1件)、インドネシア(1件→4件)、リビア(0件→3件)、パキスタン(6件→8件)、ロシア(0件→2件)、ソマリア(1件→9件)、イエメン(2件→4件)となった。特にアフガンを拠点とする「ISのホラサン州」の活動が今年のラマダン中に活発となり、首都カブールなどでのテロ事件で繰り返し犯行声明を出した。またリビアやイエメン、ロシアなどでは地元のIS系組織が犯行声明を出す事件が増えたが、ソマリアにおけるIS系組織のプレゼンスについてはよく分かっていないことも多い。一方、ISのフランチャイズ化という現象において、インド・カシミール地方というのは新しいトレンドだろう。

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カシミール地方地図 出典:wikipedia

カシミールにおける紛争とは通常ではインドとパキスタンの間における領土権争いであるが、近年そこでは政治的背景だけでなく、社会経済的な側面からもインドに強い不満を抱く若者が多くおり、そういった若者らがネットなどを通じてISの掲げる過激思想に何らかの影響を受けるケースが見られるという。ISが具体的にどのように関与しているのかは不明だが、ISとしてもそのような若者をリクルートしたい狙いはある。これに対して、現在インド政府が大きな動きに出ているわけではないが、インドにとっても看過できない動きであることは間違いない。

まとめ

以上のように、ラマダン中におけるIS関連のテロ事件の推移について簡単に紹介した。これを見ても明らかなように、依然としてIS系組織というものは世界各地で活動している。これがすぐに安全保障上大きな問題になるわけではないが、今後のIS情勢を観ていく上ではこのような各地のIS支部の行方を追っていくことが何よりも重要だろう。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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