中国の下層を生きる人々の過酷な労働と鬱屈した日々―ワン・ビン監督『苦い銭』―

   

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経済成長から取り残された「農民工」

苦い銭 映画 ワンビン

映画のポスターとパンフレット(筆者撮影)

中国製の商品は、今やわたしたちの生活に切っても切れない関係にある。たとえば衣料品は、中国からの輸入の割合が高い商品だ。財務省の貿易統計によれば、日本における「衣類・同付属品」の輸入で、中国製品は6割を占める。

安価な衣料品を作っているのは、どのような人々だろうか。中国の製造業を底辺で支える出稼ぎ農民「農民工」の存在は、日本のメディアでも度々取り上げられ、2015年にファッションブランド「ユニクロ」の製品を製造する中国工場が、香港の労働団体に告発された事件は記憶に新しい。日本企業にとっても彼らの性格や動向は、注目すべき課題である。

王兵(ワン・ビン)監督のドキュメンタリー映画『苦い銭』は、中国の下層を生きる農民工の姿を映す。ただし、監督が映すのは、巨大企業や国際企業の工場ではない。小さなビルの狭い部屋で、数十名の従業員がひたすらミシンの前で作業をしているような、零細企業の日常である。

映画が描く風景

映画の始まりでは、中国の奥地のある家庭の薄暗い部屋で、ある家族が淡々と会話している。その家の娘は、家を離れて沿岸部の都市に出稼ぎに行くのである。夜行列車で、音もたてずに熟睡する彼女の表情が印象的だ。彼らが向かうのは、出稼ぎ労働者が住民の80%を占める町、浙江省湖州である。零細の服飾工場に勤務する、30万人以上の出稼ぎ労働者が暮らしている。

汚れた道の両側に並ぶ工場と店舗の看板。仕事を終えた彼らが帰るのは、薄汚れた集合住宅。ここまでは、旅行や出張で中国を訪れて、目にすることがある光景かもしれない。しかし、このあとカメラは集合住宅のなか、観光客が立ち入ることのない領域に入り込む。

夜行列車に乗って湖州に着いた女性の同僚は、常日頃から夫に暴力を振るわれている。「出て行けって、ここはわたしの店でもあるのよ」と妻は叫ぶ。夫は、妻の浮気を疑っているようだが、実は家事をめぐる些細なことから喧嘩が始まったのだと判明する。夫婦は麻雀もできる雑貨店を経営しているが、客の前でいがみあい、見かねて客の一人が仲裁に入る。「200元やるから、まずは落ち着け。俺にはこんなことしかできない」。
実は、妻は妹の家に逃げたが、妹も彼女を持て余したため、夫のいる家に戻って来たところであった。彼女はひとり深夜に孤独と鬱屈をたたえて、街にたたずむ。

農民工が金を貯めて小さな店を開いても、染み入るような不安をぬぐうことはできず、家族の間でさえ不和が絶えない。癇癪を爆発させ、泣きわめき、同情はするが他人ができることは限られている。カメラの前には、名もない普通の人々の姿がある。

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春申游客
地方大学の大学院で中国近現代文学を学んでいる。過去に上海に語学留学の経験あり。地方の小説を読んで誌上旅行するのが趣味。

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