SHARP台湾鴻海(ホンハイ)買収を巡る政治緊張と中国経済先行き不安

      2016/05/26

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ホンハイ郭会長(テリー・ゴウ)

ホンハイ郭会長(テリー・ゴウ)

高橋興三社長社長は4日、取締役会の後に開いた都内での記者会見において台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の提示する支援策を優先的に検討することを明かした。

 

これによりシャープは、ホンハイ傘下での経営再建のスタートが濃厚となった。

 

産業革新機構を中心とした「日の丸」チームによる協力を振り切り、支援額で2000億円程度も多く提示した台湾・中国系企業の船に飛び乗った形だが、この動きについて日本の主要各紙も訝しがる論調が多い。

 

「ある政府関係者は「産業革新機構から出資をしたいと言ったわけではないのに、いつのまにか、”私のためにケンカをしないで”状態になっている。こんな話ではなかったはず」と首をかしげる。これまで有力視されてきた産業革新機構による支援案を押しのけ、突如、鴻海が”暫定一位”の座に就いた背景には、シャープの経営を事実上握る、銀行の意向がある。」
東洋経済オンライン 2/5

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ホンハイ傘下入りに揺れるSHARP本社ビル

ホンハイ傘下入りに揺れるSHARP本社ビル

近く返済時期を迎える5000億規模の「借金」に対し、産業革新機構と主要取引銀行らが組むスクラムに「ほころび」が生じていたとの見方だ。

 

確かに経産省らが主導し、国策として日本の液晶ディスプレイ技術の海外流出を防ぐことは、国益として重要な課題ともいえる。しかしながら、国益に資するまで再建までの自社努力と企業価値が金融側の支援側から十分に得られなかったわけだ。

 

2/5の日本経済新聞の見方はこの動きを「日の丸」チームの事実上の支援協力打ち切りにつながるのでは、と見方を強めている。

 

「革新機構関係者は4日、「提案内容に差があり、現状の機構案では厳しい」と述べた。政府高官も「機構側の支援額の上積みはないだろう」と話した。機構は対抗策の提示を断念する。」
日本経済新聞朝刊 2/5(電子版)

ホンハイ会長郭台銘氏とはどのような人物か

1974年、今のホンハイの前身となるプラスティック加工業から身を起こし、現在ではフォーブスの富豪格付けで100位以内にも姿を現したことのある世界的富豪、またホンハイはiPhoneの本体の受注製造元(多くの製造拠点は中国本土にある)としても世界的に有名である。

 

台湾が未だ、蒋介石を祖にした「国民党」政権における軍事政権、戒厳令下に着実にその企業実力を蓄え、その手腕から「剛腕テリー・ゴウ」との異名を持つ。
※「テリー・ゴウ」は郭氏の英語名。台湾、香港では植民地統治時代の文化から中国読みではなく、英語読みで呼び合う文化がある。

 

郭氏の液晶事業における大きな転換期は、2012年の同じく台湾の液晶メーカー奇美電子を買収したことである。

ホンハイ郭会長(テリー・ゴウ)

ホンハイ郭会長(テリー・ゴウ)

 

奇美電子は台湾の有数の巨大企業グループ「奇美実業」の傘下企業だった。同グループはABS樹脂の取り扱いで世界一位シェアを誇る台湾有数の事業体で、安定した強い経営体質を元に液晶市場に参入したものの、2012年の撤退となった格好だが、この撤退劇の陰には様々な憶測が飛ぶ。

 

当時の日経新聞の見方である。

「奇美実業はかつて「台湾独立」を主張し、親日家としても知られる許文龍氏が1960年に設立。家電製品のボディー材などに使うABS樹脂では世界大手だ。98年に奇美電子を設立し、液晶パネル事業に参入。ソニーや東芝など日本の電機大手にも広くパネルを供給している。

 

ただパネル業界の過剰生産などを受けて業績が悪化。2010年には鴻海グループの液晶パネル大手、群創光電と合併したが経営体質の違いもあって内部対立が続いていた。業績も低迷し、12年1~3月期は7四半期連続の最終赤字を計上した。」

 

友好的な支援と技術流出の強い否定を強調する郭氏の今回のシャープ支援提案であるが、奇美電子買収の時のように役員陣のホンハイ関係者独占など、瞬く間に日の丸DNAが骨抜きになる事をシャープと関係各所は慎重にならざるを得ない。

郭会長と国民党、親中派としての後ろ支え

郭会長はまた、出自が中国本土出身(台湾国内では「外省人」と呼ばれる)であることから、親中的な姿勢もしばしば台湾国内においてはクローズアップされる。

 

日本統治下後、すぐに中国本土から台湾に上陸をした蒋介石率いる「国民党」は、1947年。台湾での国民党政権への反対派が自主独立を掲げた運動を行った「2.28事件」での治安への不安から1987年までのおよそ30年間「戒厳令」を敷き、言論と民主活動の制限を事実上行った。この戒厳令を1992年に解き、台湾を今ある民主的な形に導いたのが時の総統李登輝である。

 

民主化が進み、台湾独立論の気勢を上げる国民党の最有力対抗馬「民進党」の動きに、台湾併合論を掲げる中国本土側は国民党との連携を強め、この流れは政治分野のみならず経済分野にも大きな影響を持っていると言われる。

 

先に上げた奇美実業グループの創業者許文龍氏は李登輝総統の政策ブレーンも務めた「台湾独立・民主派」の急先鋒。

 

対する奇美側より液晶事業を傘下に収めたホンハイ郭会長側はたいへんな「親中・国民党支持者」としても知られる。

 

「鴻海は中国に工場が多く、郭氏は中国の習近平国家主席が掲げる「中国の夢」について「中華民族の子孫として血が沸き立つ」と述べるなど中国寄りの発言が目立つ。選挙で中国国民党の応援演説に立つことも。学生運動を「民主主義ではメシは食えない」と批判したり「政治は経済に仕えるべきだ」と、物議を醸す発言もある。」
産経新聞 2/4(産経WEST)

 

また、先月圧倒的な勝利により台湾民主化と独立の機運をさらに推し進めた、蔡英文民進党代表の総裁の当選後、劣勢の親中派国民党は郭氏の次期代表就任を模索した。

 

「2016年1月25日、3月26日に行われる台湾・国民党の主席選挙をめぐり、党中央委員で台南市議会議員の盧崑福(ルー・クンフー)氏は、個人名義で記者会見を開き、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(グオ・タイミン)氏への出馬打診を提案した。」
Record China 1/26

 

一見、台湾における政治的後ろ盾が強く、また中国本土にも多く生産拠点を持つ郭会長の、順風満帆のシャープ買収とも見えるが、そこには陰りがある。

ハードランディングを懸念する中国経済と、親中、国営企業たち

シャープ高橋社長が郭氏の提案の優先検討を表明した4日、IMFのラガルド専務理事は中国経済のハードランディング(失速・バブル崩壊)懸念に対し言及した。

 

「国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は、中国が国有企業改革を続け、市場主導かつ明確な為替政策をとれば「ハードランディング」を回避できるとの見解を示した。」
ロイター 2/4

IMFラガルド専務理事

IMFラガルド専務理事

圧倒的な選択と集中による国策で、一部の企業に大きな肩入れをし成長させた中国経済の手法は、世界の経済界を驚かせた。

 

しかしながら、中国が今直面している問題は、その選択と集中により、一部の国有・国策支援企業において腐敗が進み、国際競争力の鈍化のみならず政治利権へも影響した混乱を招いているという事である。

 

実際に、習近平国家主席肝いりの腐敗撲滅運動は日々成果をあげつつある。

 

この波は経済界への影響も必須とみられ、昨年の12月には国策企業として中国政府中枢と深いパイプを持つと言われている企業の経営者までもが、一時拘束されたとの報が世界を飛び回った。

 

「米著名投資家になぞらえ「中国のウォーレン・バフェット」と異名を取る民営投資会社、復星集団会長の郭広昌氏が突然、周囲と連絡が取れなくなっていたが、14日に仕事に復帰したと報じられた。ほかにも有力投資家や証券関係者が中国当局に逮捕、摘発されるケースが相次いでおり、「江沢民元国家主席の金融人脈が切り込まれている」との指摘もある。」
ZAKZAK 12/16

 

台湾企業とはいえ、親中派として、また本土に多くの拠点とコネクションを持つ郭会長にとって、中国経済のハードランディングへの焦りと、シャープのような有名企業を買収し自身の力を本土の政権幹部に印象付けることは、ある面において身の保身とも言えるかもしれない。

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