欧米におけるヘイトクライムの状況1 ~米国~

   

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トランプ大統領の「テロ打倒」

trump トランプ 大統領

(出典:トランプ氏Facebook)

2017年1月に就任したトランプ氏は、外交・安全保障上に最優先課題としてイスラム国(IS)の打倒を掲げている。

ISやアルカイダなどのサラフィージハード主義組織は弱体化や分裂、合併などを繰り返しながらも、依然として欧米への強い攻撃意思を持っていることから、

トランプ氏が一国の大統領としてその打倒を最重要課題とすることに筆者は違和感を覚えない。

しかしトランプ氏の“イスラム=テロ”と匂わせるような言動や政策手法は、今日のテロという脅威の実態と本質に照らした場合、

かえって米国(ここでは海外・国内問わず米国権益と米国人)を危険にさらす可能性があり、今後の動向が非常に懸念される。

米国のテロ情勢

このようにトランプ氏がテロ問題を重要視する背景には、米国内のテロ情勢がある。

近年米国内ではISやアルカイダなどに感化された者たちによるテロ事件(いわゆるローンウルフ型)が、カリフォルニア州サンバーナディーノ(2015年12月)、

フロリダ・オーランド(2016年7月)など各地で発生し、イスラム過激派、イスラム移民らによるテロが深刻な脅威と捉えられるようになっており、

去年の大統領選挙戦でもテロリズムは経済と並び国民が最も関心を持つイシューであった。

そしてそれら事件が日本国内でも大きなトピックとして繰り返し報道されることから、我々も米国内でのイスラム過激派やそれに感化された者によるテロ事件に自然と強い懸念を持つようになっている。

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実は多いのが……

反ユダヤ主義者によるユダヤ教施設への爆破予告などが増えている。

だが米国の治安機関等から発表される統計などを冷静に観ると、テレビや新聞で強調されるほどイスラム過激派関連のテロ事件は決して多くなく、

保守的な白人優位主義者による暴力、反ユダヤを掲げるヘイトクライムなどが昨今目立つようになっている。

米国のFBIが明らかにした最新の統計によると、去年全米で発生した宗教的偏見に基づくヘイトクライムは2015年比で23%も増加したとされるが、

2015年に発生した全てのヘイトクライムにうち、宗教的偏見に基づく事件は全体の19,8%を占めるまでで、人種や民族に由来にするヘイトクライムが58,9%と半数以上に上ったとされる。

そしてそのうち人種に基づくヘイトクライムでは、黒人・アフリカ系に対する事件が52,7%と半数を占め、以下白人に対する事件18,2%、ラテン系に対する事件9,4%、

アジア系に対する事件3,3%、アラブ系に対する事件1,2%となり、事件数の違いはあれ多様な人種が差別を受けていることが分かる。

また2015年の宗教的偏見に基づく事件をみると、その半数以上の51,3%が反ユダヤを掲げる事件で、

反イスラムを掲げるヘイトクライムは22,2 %と我々がイメージするほど多くないことが明らかとなった。

また今年1月にはテキサス州にあるモスクに対する2件の放火事件があった一方、今年に入って米国ではユダヤ教施設に対する爆弾騒ぎが少なくとも50件以上確認されている。

「外人嫌いのアメリカ」の行きつく先は

(出典:http://congressionalhispaniccaucus-lujangrisham.house.gov)

(出典:http://congressionalhispaniccaucus-lujangrisham.house.gov)

以上のような実情からは、確かにイスラム過激派によるテロは深刻な脅威である一方、

米国内では宗教や民族、人種、また移民や難民に関係なく、一種の”xenophobia”(外国人嫌い、外から来たものはお断り?)といった雰囲気が一部で生じているように感じられる。

そして米国では白人の割合が減少し、ヒスパニック系などの割合が増加するとされており、

近年のISのようなイスラムを利用したテロは、今後人種、宗教、民族間の違いを超えて米国が如何に調和してやっていけるのかという課題を我々に提示しているように筆者には感じられる。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。他に岐阜女子大学特別研究員を務める。

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