「ISが衰えたから欧米でテロの脅威が増した」というわけではない―マンチェスターの悲劇(後)

   

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イギリス・マンチェスター、英国そして欧州最大のコンサート会場を襲った悲劇。

イスラム国がシリアでは勢いを失っていく一方で、欧米では昨年は仏・ニースのトラック襲撃事件やベルギー・ブリュッセルの爆破事件、

そして今年4月はロシアでのサンクトペテルブルク地下鉄テロ事件が発生するなど、

依然予断を許さない状況が続いており、依然として国際社会はテロの脅威に翻弄され続けている。

こういった欧米でのテロの増加は、どんな事実に起因しているのだろうか?シリアで見られるISの衰退は関係ないのだろうか?

世界の安全保障情勢に詳しい清和大学/オオコシセキュリティコンサルタンツ 和田大樹氏に話を聞いた。

前回記事

コンサート会場で繰り返される事件―マンチェスターの悲劇(前)

そして続いては、今回のテロ事件について最も筆者が伝えたいことを書きたい。

今回の事件ではISが犯行声明を出し、メディアや専門家の間でも、

「ISがシリア・イラクで弱くなっていることの反動により欧米でテロが増加している」などの見解が出されているが、ここで事実関係を押さえておきたい。

「ISが衰えたから欧米でテロが増えた」は間違いだ

9.11後欧米で増加したテロ

まず、最近はやりの”ホームグローン”や”ローンウルフ”

(両言葉の意味・定義自体を今こそテロ研究者らが明確にしなければならないが)といった例は、何もIS台頭後に現れた現象ではない。

9.11以降の国際テロとアルカイダの時代から欧米で深刻となった現象であり、

例えば昨今英国のテロ研究機関ICSRが”Research Perspectives on Online Radicalisation: A Literature Review 2006-2016”と題する論文を出したように、

2005年以降あたりから欧米では継続的に見られた現象なのである。

IS・アルカイダは欧米への攻撃を強く呼びかけ

また今回の事件の直前には、アルカイダ創設者のオサマ・ビンラディンの息子で、

近年徐々にアルカイダの中で存在力を高めているハムザ・ビンラディンが、欧米諸国で単独的・自発的なテロ攻撃を仕掛ける趣旨の声明を出し、

米国が最も深刻な脅威ととらえるAQAP(アラビア半島のアルカイダ)も同様のメッセージを出している。

ISとアルカイダの違いすら知らない実行犯も

昨今アルカイダとISのブランド戦ともいえる競争がジハーディストたちの中で生じているが、

両者が欧米への攻撃を同時に強く呼びかけることには注意をする必要がある。

それだけ世界中のジハーディストたち(その支持者含む)の視点・集中力を欧米へ傾かせる可能性があるからだ。

長年このようなホームグローンやローンウルフという現象をウォッチングしている筆者として感じるのは、

実行犯たちにとってISかアルカイダかはそれほど重要ではなく、またその違いについて知らない実行犯も非常に多いということだ。

一個人の暴力が「テロ」と化す社会

今回のように、彼らが大規模な暴力に走る背景は、帰属意識の喪失、社会的孤独感、絶望感、単なる冒険心など各自によって異なり、

1つ1つの事例を十分に検証する必要があるが、ISやアルカイダといったブランドが

彼らを異常な暴力者へ駆り立てる一種の起爆剤的役割を果たしてしまっていることに、今日大きな問題がある。

事件によってその規模は違うものの、一個人の起こした暴力というものが、事件後に世界中で有名なテロ組織にとって追認され、

それによって我々はテロとしてそれに対処するという、極めて複雑で対応困難な現象に今日の我々は直面している。

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和田 大樹(わだ・だいじゅ)オオコシセキュリティコンサルタンツ シニアアナリスト兼アドバイザー/清和大学講師。国際政治学や安全保障論を専門とし、国際テロ分野においてアカデミアを中心に、シンクタンク、コンサルティング会社など幅広く活躍。2014年5月に主任研究員を務める日本安全保障・危機管理学会から奨励賞を受賞。著書に『テロ・誘拐・脅迫 海外リスクの実態と対策』(2015年7月 同文舘出版)など。

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